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後部座席
早見は運転席に。
いつもは後部座席に座る智樹だったが、今日は助手席に座った。
「今日は後部座席に乗らないの?」
信号待ちの時、早見は助手席に座る智樹を見る。
「本当は俺、1人で後部座席に座るの寂しいんです」
智樹も早見の方を見た。
「意外だね。いつも後ろで寝てるから、そんな事思ってるなんて思わなかったよ」
信号が緑に変わり、早見はまた前に向き直した。
「1人の時は、寝るしかすることなかったんです。外の景色を見てもビルやアスファルトばっかりで、全然楽しくなくて…。スマホも嫌いです。本当に欲しい人からの連絡を待つばかりで、寂しいだけです」
いつもそうだ。
雅樹と電話で話すのは、毎回俺から。
雅樹からの連絡なんてこない。
俺がこんな感じだから…。
いつもニコニコ笑って、勝手に人の事を分析して、その人が言って欲しそうな事を言ったり、したりする。
心の中ではドロドロしたものが流れてて…
俺がこんなだから雅樹は俺の方を、見てくれないんだ…。
「俺は…、最低だ…」
智樹が小さな声でポツリと呟くと、早見は何も言わず、車を路肩に停めた。
「そんな事ない。智樹君は、最低なんかじゃない」
ハンドルから手を離し、体ごと智樹の方早見が見る。
「最低ですよ…」
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