後部座席 

1/1
前へ
/408ページ
次へ

後部座席 

早見は運転席に。 いつもは後部座席に座る智樹だったが、今日は助手席に座った。 「今日は後部座席に乗らないの?」 信号待ちの時、早見は助手席に座る智樹を見る。 「本当は俺、1人で後部座席に座るの寂しいんです」 智樹も早見の方を見た。 「意外だね。いつも後ろで寝てるから、そんな事思ってるなんて思わなかったよ」 信号が緑に変わり、早見はまた前に向き直した。 「1人の時は、寝るしかすることなかったんです。外の景色を見てもビルやアスファルトばっかりで、全然楽しくなくて…。スマホも嫌いです。本当に欲しい人からの連絡を待つばかりで、寂しいだけです」 いつもそうだ。 雅樹と電話で話すのは、毎回俺から。 雅樹からの連絡なんてこない。 俺がこんな感じだから…。 いつもニコニコ笑って、勝手に人の事を分析して、その人が言って欲しそうな事を言ったり、したりする。 心の中ではドロドロしたものが流れてて… 俺がこんなだから雅樹は俺の方を、見てくれないんだ…。 「俺は…、最低だ…」 智樹が小さな声でポツリと呟くと、早見は何も言わず、車を路肩に停めた。 「そんな事ない。智樹君は、最低なんかじゃない」 ハンドルから手を離し、体ごと智樹の方早見が見る。 「最低ですよ…」
/408ページ

最初のコメントを投稿しよう!

334人が本棚に入れています
本棚に追加