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川上 幸樹 ⑥
「ねぇ幸樹兄さん。聞いてもいい?」
智樹は聞くタイミングを見計らって振り返る。
「なに?」
幸寿は智樹からの質問に嬉しそうに微笑む。
「幸樹兄さん…、恋人、できたの?」
智樹は幸樹から目を逸らし、悲しそうに俯くと、
「え⁉︎」
幸樹は驚きすぎて、勢いよく椅子から立ち上がる。
「なんでそんな事思うんだ?」
悲しそうに俯く智樹の顔を、幸樹が覗き込んだ。
「その……、いつもより…気持ち……よかったから……」
恥ずかしさでいっぱいなように、智樹が顔を真っ赤にする。
「え…?」
幸樹が智樹の言ったことがわからないと、目を見開く。
「だから…、舐めてくれた時…、凄く…気持ちよかったから…、他の誰かとH…、してるのかな…?って、思って…」
恥ずかしさで徐々に智樹の声が小さくなっていくようだ。
すると、幸樹がぎゅっと智樹を抱きしめて、
「そんな事、あるはずない‼︎俺には智樹だけ。智樹だけしか見えてない」
智樹の髪に幸樹がキスをした。
はぁ〜。
また幸樹兄さんは俺にキスした…。
俺にキスできるのは雅樹だけなのに…
でも、唇じゃないから、まだいいか。
「智樹?」
「あ…」
幸樹にキスされた事に気を取られていた智樹は、一瞬、なんと答えていいか分からず、口籠もる。
「智樹が不安になることなんて、微塵もないんだよ」
優しく幸樹が智樹の顔を覗き込み、
「智樹、そんなに気持ちよかった?」
嬉しそうに微笑むと、智樹が間髪いれずに頷いた。
こういう時はすぐに返事するのがいい。
ま、確かにいつもより気持ちよかったし…
それに恋人ができて、その人が恋人の座を奪い取りたくて横からと何か言われたくなかったし、俺、幸樹兄さんの恋人じゃなのに、誤解されるのも面倒だから。
「よかった。もし付き合ってる人がいたら、俺、もう幸樹兄さんのそばにいられないと思ったから…」
「智樹…」
幸樹がもう一度智樹を抱きしめようとした時、
「僕、もう帰るね」
智樹は幸樹の言葉を待たずに部屋を出、梶野に頭を下げるとその場を去った。
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