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それにしても雪に足を取られながらのせいなのか、いつも通りの帰り道なのにやけに時間がかかってしまった。まあ足取りが重いし気が重いのも少しはあるかもしれない。
信号で足を止める。ついでに俺の人生の歩みも止めて欲しい。目の前の信号の色は赤から青へと直ぐに変わった。それと同時に無機質な音が流れる
「寒いなぁ‥‥ホント」
「心が」
気付けば俺の心と財布の懐は寒冷期を通り越して、生き物が死に絶える氷河期に突入していたようだった。
音が耳に入るに伴い、俺は殆ど反射的に足を進める。左右確認しないと危ないだって?馬鹿め。車が来たら音で分かるのだ
それに今の俺の歩みは何人足りとも止める事は出来ん。歩行者こそが強者なのだ。人身事故舐めんなよ、おらぁ!人生クラッシャー第一人者だぞ!
‥‥‥まあ俺の心は既にクラッシュしてるけどね。
と、言ってる側から白いトラックが荒ぶる音と共に横路地から颯爽と現れる。例えるならラブコメでパンを口に加えて現れるヒロインの如くだ。奴らは歩く人身事故製造機!
遅刻遅刻〜。早く学校に急がなきゃー!そんな感じで前方不注意で主人公とぶつかってそこからフラグが建ってゆくのだ。なにその素敵事故。俺もぶつかりたいんだけど!むしろ積極的にぶつかっていきたいんだけど!!
しかしこの場合、あのトラックにぶつかっても建つのは死亡フラグだし、出てくるのは美少女ではなくオッサンであろう。夢も希望もついでに彼女もいない
まああちらも急いでいるのだろうし、トラックは止まりそうにないので俺は動きかけた足を止めた。
ふと、気付くと背後に息遣いを感じる。そいつは何かをボソボソと口にしている様だった
「何言って」
────トンッ!
後ろにいたその誰かが俺の背を軽く押した。
瞬間、耳を劈く音が響き渡る。これは多分ブレーキをかけたトラックのタイヤがアスファルトを擦っている音だろう
誰が押したのだろうか。せめて後ろを振り返って顔だけでも確認して……!
だが視界はトラックのライトによって何も見えず白んでしまっている。光源が横から近づいてきたかと思うと、物凄い衝撃が俺の体を駆け巡ったのはそれから直ぐの事だった
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