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このアルタートゥームはかつて世界其の物の力を内包した理の外に位置する絶対の存在である"始祖"という者たちがいたと云われている
しかしそれも遥か遠い昔の話だ。彼の存在はもういない。だがもしもこの力を手にすれば、この抗えぬ運命を。或いは打ち破れるのではと考えた者がいた。
────この運命を否定したいと誰かがそう思ったのだ。何を犠牲にしようとも。誰を不幸にしようとも。
後悔はない。もう後戻りは出来ないのだから。既に賽は投げられた。
振った誰かの小さな手は震えていた。
†††
目の前が白んでいる。どこかデジャヴを感じさせる景象を前に、地面を擦るタイヤの残響音がどこからか耳の中で木霊し続ける
「────初めまして、偉大なる龍王様」
そんな残響音をかき消すのは、どこか聞き覚えのある透き通った綺麗な音色みたいな声だった
誰だ。淡雪ちゃん?でも、なんだか……
焦点が未だにぼやけるが俺は音を頼りにして身体を動かそうとする
ガシャン!弛んでいた金属が幾つもピンと延びる音と共に俺の動きが半ば強制的に止まる。
人の最も尊重すべき自由権の侵害である。訴訟してやる、弁護士を連れて来い!
それでも無理矢理身体を動かそうとして、身体の操作が覚束ず、ついでに何か重力のような目に見えない力により引っ張られる形で地面に叩きつけられた
「Gau!!(いてっ)」
それとほぼ同時に低い地鳴りの様な獣の呻き声が直ぐ近くで響いた。猛獣でもいるのだろうか?つまり、檻か何かに拘束されてると考えるのが自然だろう
「魔法で動きを封じさせて貰っています。貴方様への不敬をお赦し下さい。私の名前は……」
「Gagg!?(なんだと)」
徐々に目の焦点が定まってくる。這いつくばっている俺の顔もとには、白蓮のように一切の色素を含まない無彩色の浮世離れした少女が立っていた
「(なんだ、お前は)」
そいつは先ほどまで自分と楽しそうにお話してくれていた純白の幼女と同じ顔をしていた
「(誰だか知らんが)」
だが、あの子とは顔が同じでも似ても似つかない。無機質な能面の様な表情を張り付けている
「(その顔でその表情はやめろ)」
なんだか、それがどうしようもなく
「(不愉快だ)」
少女は少しだけ困った表情になり、頬をぽりぽと掻く
「何を言ってるかは分かりませんが」
「言いたい事は分かってますよ」
少女はわざとらしく間を置いて口を動かした
「私の美しさを称えているのですね?」
真顔でなに言ってるのこの人?
恥ずかしいんだけど!ねぇ恥ずかしいんだけど!!誰か大きな包帯持ってきてー!
人1人丸ごと包めるやつ!!
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