五話 チャンス

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「面倒くさい事になったーーー」 ハウゼンが部屋を出ていった後、僕はベッドに飛び込んで叫んだ。 もう頭がグチャグチャだ。 昨日は父様達に罵られ、今日は起きたらすぐに、物凄い事を言われた… 「…夢って事に成らないかな?」 「成りません」 「!!」 僕は、返事が帰ってきた事に驚いて顔を上げると、そこにはルナがいた。 「ノックぐらいしてよ…」 「いたしました。お返事ありませんでしたので、入らせて頂きました。」 「…普通返事が無いときは入らないだろ…」 僕が、ボソッと呟くとルナは、何か問題でも?と言う様に首をかしげた。 「まあ、いっか。それで?どうしたの?」 「はい、べノー様がお越しの様でしたので、お茶をお持ちしたのですが…」 「ハウゼンならさっき帰ったよ。」 「そのようでございますね。」 「それだけ?」 「いえ、他にもこちらを旦那様よりお渡しする様に仰せつかっております。」 そう言ってルナが、僕に差し出した物は、何かの入った質の良い布袋と二つに折られた紙だった。 紙を開くと、そこにはこう書いてあった。 【袋の中に金が入っている。その金で舞踏会で着る礼服を買い揃えて置くように。】 その手紙を読んで、袋を開けると、レナール金貨が十数枚入っていた… 「っふ、ちゃんとした格好をさせないと、家の名に傷がつくと思ったのか…」 僕が、嘲笑気味に呟くと、ルナが 「レティス様、お茶をお飲みになりますか?」と聞いてきた。 ルナは基本無表情だが、僕を心配する時、とても悲しそうな顔をする。 「頂くよ。」 僕が笑顔でそう答えると、ルナが一瞬笑った…様な気がした。きっと気のせいだけど… 「ルナ、お茶を飲み終わったら、街に行くから準備をお願い。」 「かしこまりました。では、失礼いたします。」 ルナはお茶を僕の前に置くと、そう答えて部屋をあとにした。 僕は、お茶を飲みながらもう一度考えてみた。 「通訳ならまだしも、外交何て僕にできるのかなぁ……いや、無理だろ…」 僕の、つぶやきは、天井のシミに吸い取られる様に消えていった。
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