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六話 出発
次の日の午後、僕が鏡花帝国の歴史書を読んでいると、ハウゼンが転移魔法で僕の部屋やって来た。
「レティス様、昨日の事を陛下にお話したところ、大変喜んで頂けました。」
「そっか、良かったね。」
「他人事過ぎませんか?貴方の事ですよ。」
「わかってる、わかってるけど、陛下って言われても、実感わかなくて…」
「左様ですか、ではこちらを。陛下からレティス様宛のお手紙と招待状です。」
「陛下が僕に?招待状はわかるけど…」
そう言いながら、僕は陛下からの手紙を恐る恐る開けて、読んでみた。
【この度は協力感謝する。ハウゼンから聞いた話ではとても優秀だという事で、期待している。当日は宜しく頼む。それと最後に、貴殿には事前に伝えておく事がある、したがって、視察団の到着2日前には、城に来て欲しい。】
「二日前って事は…後、今日入れて四日しか無いじゃないか!」
「ええそうです。ですので、今日からみっちりダンスの練習を行って頂きます。」
僕が驚きの声を上げると、ハウゼンは平然とした態度でそう答えた。
「…じゃあ、剣の稽古は当分できないね。」
僕が内心ラッキーと思いながら言うと、
「そちらも、平行して行きますので、ご安心ください。」
と言われたので、僕は心の中で叫んだ。
何を安心しろって言うんだ!僕を殺す気か!この鬼畜め!と。
次の瞬間、ハウゼンと目が合ったので、凄くドッキっとした。心を読まれて無いよね…
読まれてそうで、怖い…
本当に…
「それでは、私はお父上に陛下からお預かりしている物がありますので、少し失礼しますね。今日は、その後にダンスの基礎を叩き込みますので、お覚悟を。」
「…」
そう言って部屋を出ていくハウゼンを、僕は内心、戻って来なくて良いのにと思いながら、見送った。
その日から地獄の日々が続いた。
剣術に社交ダンス…
どちらも苦手だ…
いや、苦手に成ったが正しい…
ハウゼンのせいで…あの鬼畜め!
けれど、その日々も今日で終わりだ。
いよいよ明日、城に向かう…
そう考えると、不安でなかなか寝付けない…
「鏡花帝国の資料でも見直すか…」
僕はそう呟きながら、勉強用の机に向かった。
僕が、資料を数ページ読み終えた時だった、トントンと扉を叩く音がした。
こんな時間に誰だろう?
「こんな時間にどちら様?」
「ルナです。」
何だルナか、と僕は内心ホッとした。父様かと思った。明日の事について、何か言いに来たのかと…そう考えていると、ルナが聞いてきた。
「入ってよろしいでしょうか?」
「ああ、ごめん良いよ。」
僕がそう答えると、ルナはゆっくりと扉を開けて入って来た。
その手にはお盆を持っていた。
お盆の上には、ティーポットなどが乗っていた。
「レティス様が寝付けないのではと思い、差し出がましい様ですが、お茶をお持ちいたしました。」
「…ありがとう、頂くよ。」
僕は、彼女の気遣いが嬉しかった。
こんな、僕の事を気遣ってくれる人間がいた事が嬉しくて泣きそうになった。
家族から浴びせられた罵声の数々。
それでも、僕には、僕の事を思ってくれる人達がいる。
だから、頑張ろう。
無理でも、自分にできる限りの力を出そう。チャンスをくれたハウゼンや僕を気遣ってくれるレナ、僕をしたってくれているグレンの為に。
そう思いながら、僕はルナの入れてくれたお茶を飲みほした。
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