昭和十七年十二月某日

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   敵は私と同世代の新型戦艦まで繰り出して来て、必死にガダルカナルの占領を、確実にしようとしているんですよ!  それに比べて私はこの泊地で、のんびりひなたぼっこ! 敵の四〇サンチ主砲搭載新型戦艦は、私が一番戦うべき相手だったのに!…いえ、そんな事より、私がついていれば『比叡』先輩も『霧島』先輩も、無事に連れ帰って来れたはずなんです! 自信あるんです! それなのに!!………  泊地の入り口で停泊し、無言で二隻の妹さんの帰りを待ち続けられた、『金剛』先輩と『榛名』先輩の後姿…忘れられません。  旗艦を務められた『愛宕』先輩のお話だと、夜戦は二回とも痛み分けだったみたいですが、肝心の戦艦の飛行場砲撃は失敗。そのため、夜戦のどさくさ紛れでガダルカナル島に上陸した陸軍さんの増援部隊は、夜が明けると同時に空襲を受けて、大損害を受けてしまいました。  でも相変わらず、大本営は大戦果の発表。まぁ大乱戦だった今回は実際、敵にどれだけの損害を与えたか不明なんですけど。  ただ今回の作戦失敗はかなり響いたみたいで、司令部の人達も頭を抱えている感じです。軍艦もそうですが、特に輸送船が沢山沈められ、ガダルカナルへの増援や補給が苦しくなって来たとか。駆逐艦による“ネズミ輸送”も、それを行う駆逐艦の数まで連日の激戦で減っていて、だんだん難しくなってるようです。  実際、私と『陸奥』先輩がいるトラック島の泊地も、『比叡』先輩や『霧島』先輩をはじめ、出撃を見送ってそのまま帰って来て下さらない先輩方が増え、停泊する軍艦の数が次第に減っているのが寂しいです。  そういう事もあって…海軍の人達の中で、何も働いてない私に冷たい目を向ける方が増えて来て、いろいろ陰口を囁かれるようになったんです。  冷房完備なのや食事の良さを揶揄して、“大和ホテル”呼ばわり…こんなのはまだいい方で、ひどいのは“世界の三大無用の長物”…万里の長城とエジプトのピラミッドと戦艦大和、らしいです。私だってお役に立ちたいのが、出撃命令が出ないだけなのに…やりきれません。  そんな私に比べて『陸奥』先輩は動じておられません。訓練中に私が“世界の三大無用の長物”って陰口叩かれてるって不満を言うと、「へぇ~。じゃあ人間さんの歴史に残るんだぁ、すごいねぇ」とのんびり仰り、明るく「どーん!」と言いながら主砲を発射されます。それがまた、初弾からほぼ正確に標的を捉えて…  実は『陸奥』先輩もほとんど出番がなくて、“艦隊旅館”とか、駆逐艦に重油を分けるだけの“燃料タンク”と、陰で囁かれていて、ご自分でも知っておられるはずなんですが。  そう思うと『陸奥』先輩はやっぱり凄いんだ、と感じられるようになりました。風変りだけど、あの『長門』先輩の妹さんなのが理解できます。  で、ようやく『陸奥』先輩の事が分かって来たところで、その『陸奥』先輩に本土への帰還命令が出てしまいました。もっと仲良くなろうと思っていたのに残念。  だけどその代わり、このトラック島に私の妹の『武蔵』が、やって来る事になったんです。今年の八月に就役して訓練を続けていたんですが、ついに完了したんですね。『武蔵』は長崎で建造されたので、私もまだ話をした事は無く、訓練しているのを遠目で見かけたぐらいです。どんな妹なのかなぁ。早く会いたいです。 99f2864e-09c1-423b-8088-c4a08b8b6c6a 最古参の重巡の『古鷹』先輩や『衣笠』先輩も、帰って来られませんでした…
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