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あちゃー。主砲射撃の様子をちゃんとお伝えしようと思ったのに、お喋りが過ぎちゃいましたぁ。ごめんなさーい。操艦や戦闘は水兵さん達の仕事でして、主砲も自分の意思で撃つわけじゃないんですよ。水平線近くにとてつもない高さの水柱が九本、白く立ち上りました。とっても綺麗です。射撃は上手く…いったのかな?
でもあまり悠長な事は言ってられません。日本は関係が悪化していた米国や英国などの連合国に対して、すでに開戦を決めています。南方攻略部隊を乗せた船団は今も、マレー半島を目指しており、五日前には機動部隊への「ニイタカヤマノボレ一二〇八」の暗号無電を、私のアンテナも受信しました…戦うことが使命である軍艦の私には、難しい政治の話は分かりませんが、いよいよです。私も早く訓練を仕上げて、聯合艦隊に仲間入りしないと。
もちろん私が期待し、周囲からも期待されているのは、大日本帝国海軍の頂点、聯合艦隊の旗艦になることです。戦艦はその所属する国家の国力の象徴。強い戦艦を持つ国は、国力も強いことになるからです。
そして今の日本の最大の敵である米国…亜米利加合衆国は、我が国の二十倍以上の国力を有しています。だけど私には米国戦艦では成しえない主砲があります。四六サンチ砲を搭載した戦艦は、米国には建造できないのです。
その理由は、北米大陸と南米大陸を繋ぐパナマ運河です。パナマ運河を通過できる船の限界幅はおよそ三十四メートル弱。ここが通れない船は、南米大陸をグルッと回り込むしかないんです。そうなると日数がとんでもなくかかって、軍艦だったら作戦行動に支障が出ます。
だけど船の設計理論上、私に対抗できる四六サンチ砲を搭載しようとするなら、船幅は三十四メートル以上になっちゃうんです。そして米国で戦艦を建造できる規模の工廠は東海岸にしかないんで、結果的に建造できるのは最大でもパナマ運河を通過できる幅の、四〇サンチ主砲搭載戦艦ということですね。
主砲射撃訓練を終えた私は翌日早朝、機動部隊の先輩方が米国太平洋艦隊の本拠地、布哇の真珠湾奇襲に成功し、大戦果を挙げた事を知りました。ついに対米開戦です。もう後戻りはできません。まだ新米の私ですが、覚悟を決めてかかりたいと思います。
そんな私が呉に帰投するため、豊後水道に入った時でした。前方から大艦隊が近づいて来るのを発見したのです。現聯合艦隊旗艦の『長門』先輩をはじめとする戦艦六隻ほか、聯合艦隊の主力部隊です。真珠湾奇襲を成功させて戻って来られる機動部隊の先輩方の、お出迎えのようです。空の青と海の青の間を完璧な陣形で、一糸乱れず航行される先輩方、なんて力強いんでしょう!
「こんにちはー。はじめましてー!」
頼もしい先輩方の姿に嬉しくなった私は、ご挨拶しました。
「こんにちは」
「ごきげんよう」
「初めまして」
先輩方はご返事されながら、初めて見る大和型戦艦の私の姿を、興味深そうに眺めて通り過ぎていかれます。どうです先輩方?…私ってカッコいいでしょ?
私もすぐに先輩方の仲間に…そして聯合艦隊旗艦に!…初めてのお目見えに、私の期待も高まりました。
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