昭和十七年一月一日

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昭和十七年一月一日

   あけましておめでとうございます。  昭和十七年になりました。新たな年。呉の港の沖に揃った聯合艦隊主力部隊に、初日の出の光が降り注ぎます。  昨年の十二月十六日、竣工を完了した私は晴れて聯合艦隊の一員となって、『長門』先輩、『陸奥(むつ)』先輩のいる第一戦隊へ配属されました。  『長門』先輩は聯合艦隊旗艦だけあって、大人って言うか、物静かでいつも落ち着かれている感じです。その『長門』先輩の同型艦で妹さんの『陸奥』先輩は、どこかのんびりした感じでしょうか。でもこのお二方は、私が建造されるまでは聯合艦隊…いえ、世界でも最強の戦艦だったんですよ。  その理由はお二方が搭載する四〇サンチ主砲。実際は四一サンチ主砲なんですけど、これを搭載している戦艦はですね、お二方の他に米国の『コロラド』『メリーランド』『ウエストバージニア』と、英国の『ネルソン』『ロドニー』しか存在してなかったんです。  この七隻は『世界の七大戦艦』と呼ばれてまして、世界中の海軍の憧れの的なんですよ。戦艦は何と言ってもその国の国力の象徴でして、強力な戦艦を自前で建造できる国は、つまり超大国って事になるんです。  え?…米英の他に、自前で戦艦を建造できる国ですか?  そうですねぇ、独逸(ドイツ)伊太利亜(イタリア)仏蘭西(フランス)ぐらいでしょうか。それ以外の国は、英国や仏蘭西あたりの古い戦艦を売ってもらって使用してますが、本当に古くて、今の重巡洋艦と撃ち合っても負けるんじゃないですかねぇ。というのも、売られた戦艦はみんな、第一次世界大戦以前の―――あれぇ?…ああ、ほらもぅ。余計なこと訊いたりするから、話が逸れちゃったじゃないですかぁ。  去年の真珠湾奇襲以来。我が聯合艦隊は連戦連勝。南方資源の確保も順調に進んでいるようです。開戦の時は緊張しましたが、初めてのお正月を私も、私に乗る水兵さん達も、笑顔で迎えられたのは嬉しいです。  それでこの際、私も国民の皆さんに、竣工をお祝いしてもらえないかなぁ…と思うわけですよ。話に聞くと、私が自我に目覚めた“進水式”がですね。実はすごく地味らしくて、他の戦艦の先輩方の進水式は、もっと大々的だったみたいなんです。  私の建造が極秘だったのは知ってますが、完成したんだし、私の性能からしたらすぐに聯合艦隊旗艦になれるはずなんだから、新年に相応しい朗報として、国民の皆さんに私の存在を知ってもらってもいいと思いませんか?  
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