33話

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33話

「へー。何して遊ぶん?」 「なんでも好きなこと……痛くされるのは慣れてるから、酷くしてもかまわない」 震える声を押さえ、どうにか滑らかに紡ぐ。 こんなこと言いたくない。嫌だ。言うしかない。双子を部屋から出て行かせるな、隣に行かせるな、できるだけ長く足止めしろ。 ピジョンの頭にはもはやそれしかない、ケチなプライドや羞恥心は一切合切かなぐり捨ててゴースト&ダークネスを見上げる。 「いっちょ遊んだるかビッグブラザー」 「せやなリトルブラザー」 「手錠は」 衝撃が来た。 「のぼせんなカス、口とケツだけ使えりゃ用足りるわ」 ダークに頭を蹴飛ばされた。 瞼の上が切れて視界が赤くかすむ。 手が使えない代わりに鼻梁を伝った血をなめ、双子の足元にゆっくりと這いずっていく。 フェラチオするのは初めてじゃない。 スワロー以外の人間にするのは二度目だ。 前の時はスワローが一緒だった、アイツが手を繋いてくれた。 今は独りだ。 「くっ、ンっ、はっ」 独りぼっちだ。 ひとりでもできるさ。 血を飲んだせいで胸焼けする。 ゴースト&ダークネスはニヤニヤしながらただ立っている、自分からベルトを外しジッパーを緩める気はなさそうだ。 仕方なく、口を使ってジッパーを下ろしにかかる。後ろ手に手錠を噛まされた状態から上体を立て、顔を右に左に傾げ、ジッパーのフックを噛んでずらしていく。 が、上手く行かない。 「鈍くさいのォ」 ダークが足踏みして茶化す。 ピジョンはゴーストの股間に顔を埋め、唇を擦り付け、ジッパーを咥えようと頑張る。 何も考えるな、心を無にしろ。 余計な事は考えるな、全部忘れろ。 ダークが鼻を鳴らして踵を返す。目指すはドアの方、隣の部屋。 「話にならん」 「!待て」 手錠がうるさくガチャ付く。 ゴーストの股間の膨らみから顔をどけ、伸び縮み這いずってダークに追い縋る。 床と擦れたコートがはだけ、緩んだ襟ぐりから痣と擦り傷だらけの鎖骨が覗く。 ドアに向かいかけた途中で立ち止まり、うっそりとダークが呟く。 「ジッパーも下ろせんくせに」 「まだこれからだろ」 スワローのやり方を思い出せ。 他の男にちょっかいをかける時に、俺を妬かせる時に、どんな風に振る舞っていたかよく思い出せ。視線の流し方、唇の開き方、俺の欲情そそるアイツの媚態…… 自分を殺し、心を殺し。 スワローの首の傾げ方をまね、スワローの口調をまね、ピジョンレッドの瞳を淫蕩に揺らして去り際の男を誘惑する。 「一人じゃ足りない。二人がかりでしてくれなきゃ」 コートをわざとずらし、しなやかに反る首筋を見せるのも計算の内。続けてゆっくりと瞬き、尻軽のように囁く。 「三人でやりたいんだ。戻ってきてよ」 「おねだりされちゃかなわんなあ」 ダークがのらくら大股に戻ってきて、すれ違い際ピジョンの後ろ襟を引っ掴み、ゴーストの前に投げだす。 そしてまた、ジッパーを下ろさせる。 「はぁ、ふあッ、く」 「アホくさ、股ぐらに息かけられてもこそばゆいだけや」 ゴーストが片手でピジョンの頭を押さえこむ。膂力で首がもげそうだ。 「もうちょっとだから……」 「しゃあないな」 ゴーストがジッパーの上をほんの少し下げ、とっかかりを作る。ピジョンは窄めた舌先を差し入れ、じれったげにジッパーを引き下げていく。 「オーラルセックス好きなん?」 「好き、だ。はやくほしい」 これは俺じゃない、こんなの俺じゃない。 凄まじい生理的嫌悪に胃がしこり、罪悪感で心が潰れる。 ごめんスワロー、許してくれ。仕方ないんだこうするしか、だって他に方法ない。
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