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40話
ライオンは交代で眠る。
「くはぁ」
今はダークが寝ずの番をしていた。
兄のゴーストは離れたソファーに腕枕し仮眠をとっている。顔に雑誌を伏せてブーツのまま足を組んだふてぶてしい寝姿だ。さっきまでうるさかったガキどもも泣き疲れてまどろんでるのか、至って静かなものだ。
本音を言うなら自分も寝たい。
さんざんヤリまくり精も根も枯れ果てた。腹がくちくなれば瞼が重くなるのは生理現象、動物の本能だ。
ところがそうもいかない。ダークはともかくゴーストが許さない。大雑把でいい加減な弟と違い兄は剣呑で用心深い、何時いかなる時も警戒を怠らない猜疑心のかたまりだ。だからこそ常に片割れが起きて目を光らせている、さもなくば番いで狩りをする意味がない。
「あんちゃんは心配性やねん、あとはガキども変態に売っ払てもたらしまいやろ。鉄の檻破れるわけあらへんし」
子供を売り飛ばして荒稼ぎすることに良心は痛まない。そもそもそんなお荷物は持ち合わせてない。さて、懐に大金が入ったらどうするか。女どもを呼んで乱交か、武器を新調するか。ブーツやジャケットを買い換えてもいい。今日のジープの乗り心地は最悪だった、ガタガタ弾んで尻が痛い。ケツが四分割されるかと危惧した程だ。車を購入するのも悪くない。
買うなら風を切って飛ばせるオープンカーがいい、前にぴかぴかに磨き立てたライオンのエンブレムを飾るのだ。
亡霊と暗闇は世の中の不公平を均すためにいるのではない。もとから世界では塵芥の理不尽がまかり通っている。
「やっぱ車ええなあ、えらいガソリン食うって話やけど。車あったらええ女ぎょうさんひっかけられるし、ボンネットに押し倒してヤってみたいわ。ハイオク満タンフルスロットル、フリーウェイでカーセックス万々歳や。一千万ヘルあれば買えるやろ多分、もうちょい積んでもええし」
しまりなくニヤけ、指折り数えて楽しい妄想を膨らませる。暗闇の中でかすかな音がした。
目を上げる。
埃っぽい床に食べ残しが落ちている。ゴーストとダークがさんざん嬲り尽くして失神させた狙撃手だ。事後、乾いた体液に塗れた全裸に何かを羽織らせる思いやりなど二人にはない。ただの肉なのだから温情をかけるには値しない、腹を満たせばおしまいだ。
「起きたんか。何べんイッたか覚えとる?最後にはあちこち緩んでジョバジョバもらしとったな、はは。ばっちいションベンたれや、嬉ションてヤツか。漏らしながらイき狂うて笑えたでド変態」
意地悪く揶揄すれば狙撃手がのっそり上体を起こす。ピンクゴールドの前髪に覆われて沈んだ表情は窺い知れない。かすかな違和感を覚え片目を眇める。
全裸の青年が鈍重に口を開く。
「気が済んだ頃合だろ。ドッグタグ、返してくれないか」
やけに低く落ち着いた声だ。自暴自棄の虚無感と冷えた覚悟を割った声。
ゴーストとダークネスが注いだ体液が髪と肌に絡み付き、かさぶたのように乾き始めている。あちこち生傷と痣だらけで痛々しい、貧相な胸板と腹筋が嗜虐心をそそる。
またしても悪戯心が疼き、ポケットから鎖を掴んで引っ張り出したタグを噛む。
「コレが欲しいのん?」
空中にたらしたタグを振り子の如く揺らす。タグの向こうに極限状態でうなだれた青年が垣間見える。
「そない返してほしいんか。せやったら」
「半分こで満足なのか。意外と謙虚だな」
おもむろに呟く青年。虚を衝かれるダーク。ドッグタグが静止する。
後ろ手に拘束されたまま、度重なる凌辱と暴行で衰弱しきった狙撃手がうっすら笑む。
「今なら独り占めできるんだぞ?俺を」
ばらけた前髪の奥で赤錆の双眸が嗤い、口角が不敵に吊り上がる。先程とは雰囲気が豹変していた。喉が干上がる劣情に警戒心が先立ち、慎重に腰を浮かす。ドッグタグを懐に突っ込んで歩み寄り、青年の顔を手挟んで力ずくで起こす。
「誘っとんの?あんちゃん眠っとる間に俺をたらしこもうて魂胆か」
「亡霊と暗闇は切っても切り離せないか。でも、今起きてるのはお前だけだろ。ああ……間違えた、俺とお前だけか。なあ、暇潰しをしないか?眠気覚ましに付き合えよ」
捕虜のくせに随分と饒舌だ。多弁で恐怖心をごまかしてるのか。ダークの声色に嘲弄が滲む。
「ガキども助けるん諦めたんか。正義の味方気取りとうて考えなしにピンで乗り込んできたんちゃうのん」
「この状態で赤の他人に気を回せって?勘違いするなよレオン・ダークネス、俺は聖人でもなんでもない、ましてや殉教者になんか……犠牲者になんかなりさがりたくない」
酷薄に乾いた声で断言し、潤んで媚びた瞳でダークを仰ぐ。
「俺も殺すんだろ」
疑問形ですらないただの事実確認。ダークは鼻白む。
虚ろな目をした狙撃手はソファーに寝転がるゴーストに顎をしゃくり、淡々と続ける。
「あっちの……お前の兄貴の得物で試し斬りされるか、お前のナックルで原形なくなるまでボコボコにされるか。痛いのは勘弁してほしいな、苦手なんだ昔から。もうたくさんだ」
「よォ回る舌やな。俺とあんちゃんに挟んでズコバコされたのに懲りてないんか」
「これで最期なんだろ?喋らせろよ」
心地よさげに目を細め、ダークの手のひらに甘えるように頬擦りする。ぞくりとした。狙撃手が唯一自由になる口と舌を使い、暗闇の心の隙間に忍び込む。
「可哀想になお前。兄さんの食べ残しでガマンしてるんだろ」
「アホぬかせ、獲物は仲良ォ半分こがゴースト&ダークネスの流儀じゃ」
「何で前にくるんだ?兄さんだからか?兄さんの吐いたものを食わされてる自覚もないのか?」
可哀想にと憐れまれる。
気の毒にと蔑まれる。
反射的に裏拳で頬を張り飛ばす。狙撃手が血の混じった唾と奥歯を吐く。白い欠片が床にかち合い、硬い音をたてる。
「戦闘中もずっとお前を見てたんだ、ダークネス」
狙撃手が告白する。
「スコープ越しにお前を追ってた。ウチのと同じですぐ熱くなるんだな、兄さんがストッパーか?お前の兄さんは本当すごいな、感心したよ」
「せや、あんちゃんはすごいんや。サムライソードの達人や、ザコどもの手足ぶった斬って」
「足手まといがいなけりゃもっと動けるのに」
「なんやと」
「聞こえなかったならもういちど言ってやるよ可哀想なダークネス、お前は足手まといだ。策も何もなくがむしゃらに突っ込んで暴れてただけ、あれでコンビネーションとれてるとでも?挙句挑発にカッとなって、すぐ飛び出そうとしたじゃないか」
青年の胸ぐらを掴んだ拳が怒りにわななく。
ダークとて賞金稼ぎの端くれ、賞金首の悪名の方が轟いているといえど実力の彼我をはかれないほど愚かではない、自分が双子の兄に劣っている現実は痛感している。
ずたぼろの狙撃手が静かに指摘していく。
「お前にはゴーストのような冷静な判断力も正確無比な剣技も機転が利く頭も何もない、よく吼える引き立て役にすぎない。ゴーストの半分足らずの働きしかしてないから残飯漁りしかさせてもらえない」
「じゃかあしい」
「狙撃手には色んなものが見えるんだ。スコープは真実しか映さない、フェイクが通じない。俺は数段高い所からずっと見てたんだ、ゴーストがお前をいいように使うのを。フェアだって?思い上がりも甚だしい、都合よく手懐けられてるだけだって気付けよ」
ふしだらな狙撃手が暗闇に悪魔の囁きを吹き込む。
「お前らは番いじゃない。ゴーストが主でお前は従。劣るんだよ、何もかも」
生乾きの汗と白濁が絡む前髪の奥、冴え冴えと赤い目が篭絡の愉悦に蕩ける。
「ゴーストは三回。お前は五回」
「何の勘定や」
「あっちの方が長持ちしたって意味さ、早漏」
軽蔑の色に底光りする瞳。芝居がかって同情する口ぶり。頭の中が真っ赤に燃え上がる。
すかさず口を封じられた。狙撃手の唇が暗闇の怒号を封じ、柔軟な舌が歯列をなぞる。
「ふっ、ン」
くちゅくちゅと鼓膜を抜けて脳髄に響く淫猥な音。潤んだ粘膜が捏ね回される都度に快感を生む。潔癖そうな見た目を裏切るいかがわしい舌遣いが、口の中の性感帯を余さず暴き尽くす。
透明な唾液の糸引き唇が離れていき、頬を赤らめた狙撃手が挑発する。
「どうせ地獄に堕ちるならとことんまで楽しもうよ」
麻薬じみて心地いい声に誘われる。狙撃手の乳首が淫らに色付き、食べ頃に染まる。
「おっかない兄さんが寝てる間に」
「……」
兄ほど持ちこたえられなかった屈辱はダークのプライドを甚く傷付けた。
「手、ほどいてくれるかな。奉仕の幅を広げたい」
この期に及んでコイツに何ができる?捕虜を見下ろし優越感に酔い痴れ、後ろに回って戒めをほどく。狙撃手の手首は鬱血し擦り切れていた。
「あんちゃんが三回、俺が五回。んでお前は何回?」
「それは数えてなかった」
「ホンマかいな。十回は連続絶頂しとったろ」
「かわるがわるされたからね。まだ体中が疼くんだ」
コイツは男娼だ。
狙撃手がダークに縋り付いて仰向ける、ダークは生唾を飲んで狙撃手を蹂躙する、乳首を強く噛んで滲んだ血を吸い立てる、陰毛が生えたペニスを性急に擦って育てる、赤く腫れ上がったアナルが物欲しげにヒク付いて挿入を待ち受ける、乱暴に揺さぶられ狙撃手が甘く喘ぐ。
「あっ、ンっ、むぅぐっ」
自らダークに跨って腰を振りたくり絶頂に至る、どこまでも堕ちきった表情で痙攣しペニスを締め上げる。
「威勢ええクチ叩いて自分イきまくりやん、パンパンええ音鳴っとんの聞こえるやろ!」
「もっ、と、強く、ぁあっ、ンあっ」
全裸の狙撃手がダークの上で腰を前後させ踊る、大きく仰け反って絶頂し激しく撓ってイきまくる。
「すごっ太ッぁぅっ、もっと腹の奥っゴツゴツしてっ、ぁンあっンむっ」
「声落とせや、あんちゃんが起きてまうやろ」
ダークの片手が口を塞ぎ、ドッグタグが床に落下。
「むンうっ、ンっむっ―――――――」
上向いたペニスから大量の白濁を飛ばし、汗みずくの狙撃手が倒れ込む。ダークも同時に射精に至り、狙撃手の尻の奥に種を撒く。繋がった個所から淫液が伝い、引き締まった内腿をゆっくり伝っていく。
「まだ終わらんで、そっちが誘ってきたんやろ」
絶頂の余韻に狙撃手が溺れるのを許さず腰を引き立て、過敏な奥をガツガツ突きまくる。
イッた直後に責め立てられる苦しみに狙撃手がたまらず呻き、抽挿に合わせて跳ねる髪の向こうで茹だりきった表情を歪める。
「ッぐ、ぁっ、休まっ、せて、ィきすぎてっ、ふぁあ」
「俺はまだイッてないで、気合入れてケツ振れや」
ともすればへこたれる尻を叩いて引き上げれば、無理な体勢から首をねじった狙撃手が切羽詰まって懇願する。
「ぁっ、ンっぐ、頼みっ、たいことがある」
「ガキどもは助けん」
「最後にッ、煙草っ、喫わせて、くれ」
腰の動きが一瞬止まる。
無視してもよかったが……そうしなかったのは、コイツの体にほだされたからだ。
兄が寝てる間に独り占めした肉の味は格別だった。
コイツは自ら進んでダークの上に跨り、命じた通りどんな恥ずかしいことでもやった。ゴーストを起こさないように終始喘ぎ声を噛み殺していたのも評価したい。
「絶品のイキ顔見せてくれたった礼や、もってけ泥棒」
煙草に火を点け、深く吸い込んでから唇に挿す。
まだ騎乗位で繋がったまま、暗闇に一筋紫煙がたゆたいオレンジの光点が灯る。
「うまいか」
唇の端が切れるまでダークのモノをしゃぶった青年が、煙草を味わって満ち足りた笑顔を浮かべる。
次の瞬間、激痛が走る。
ずっと寝たふりをきめこんで暗闇に目を慣らしていた狙撃手がドッグタグをひったくり、その角でダークの両目を薙ぐ。
「っが、ぁが、おどれえっ!?」
ずるりとペニスを抜いて掴みかかるダーク、咥え煙草の狙撃手が床に放られたモッズコートを颯爽と羽織って立ち上がる、ソファーから身を起こしたゴーストがすかさず殺気を帯びて刀を抜く。
「どないしたんじゃダーク、しっかりせえ!」
ピジョンが目の前のダークに向け煙草を弾き、反対の手でタグを首にくぐらせる。
銃声が炸裂した。
「あっが、ぁぁ」
窓ガラスを撃ち砕いて飛来した弾丸がダークの肩を抉り、続けざまに左腕を貫く。ゴーストが激昂した隙を突き片隅に立てかけられたライフルへ駆け寄る、転がりざまトリガーを引いてぶっぱなす、ゴーストの刀が撥ねられて旋回しそこへ対岸から凶弾が飛来する。
形勢逆転だ。
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