アウェアネスー共有する、過去と未来ー

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 歌澄は、ケルスは建前上の言葉だけで無く、本当の意味で従業員一人一人を尊重する会社なのだと思った。  それは、父が社長であった頃の、関本工業を思い出させる。  関本工業の社員は、アルバイトから入った者が多い。学生のアルバイトから新卒正社員になることもあれば、フリーターから中途採用で正社員になることもある。副業を持ち、あえてアルバイトを希望する者がいれば、それ以上無理強いはしなかった。  現在では、制度自体廃止されているが、常用型派遣と呼ばれる、特定派遣のスタッフにも規定の契約期間の終了が近付くと、積極的に声を掛け、希望があれば正社員として直雇用していた。  ケルスの社長である千川京也は、カリスマ社長として、何度かTVや雑誌で取り上げられており、歌澄もその顔を名前は知っている。  歌澄はこの時、従業員について父と同じような考えを持つ千川京也に対して、はっきりした好感と、それ以上の親近感を抱いた。  紹介予定派遣の3ヶ月が過ぎて正社員登用試験に受かり、それまでの営業事務ではなく、異例の抜擢で社長秘書に配属されると聞いた時、戸惑いを感じると同時に、喜びも大きかった。歌澄は、千川の近くで働けることが、嬉しかったのだ。  1ヶ月の間、千川は理想的な上司だった。必要なことはきちんと伝えてくれるし、言葉の端々には感謝と労いが滲み出ていた。  それが、あの日一変した。
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