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佐藤さんの秘密を見てしまった日から、佐藤さんの送迎は、わたしの担当になっていた。
だれもいなくなった車内で、色呆け爺から魔王に戻る佐藤さん。
「あー、今日も面白かったなあ。
あの爺さん、わしがおやつ盗み食いしたことに気づいてなかったな」
フハハハ、と大笑いの佐藤さん。もとい魔王。
「え、中村さんのおやつ食べちゃったんですか?!」
おやつの時間、おやつを食べていないと訴えていた中村さん。
職員がおやつを配り、口に運ぶまでをちゃんと確認している。
少々記憶の怪しい中村さんに “ちゃんと食べたでしょ” と声をかける職員を見ていた。
だが、まさか。
口に入れる直前に魔力でおやつを盗んでいたとは!
「次やったら、出禁にしますよ」
魔王に釘をさす。
「それは困るな。次は善処しよう」
うむ、と頷く姿に反省の色はなかった。
魔王曰く、デイサービスは、食事とおやつが出て、入浴ありのマッサージあり。若いお姉ちゃんお兄ちゃん触り放題。ジジババの人間ドラマが間近で見れる娯楽たっぷりの場所、だそう。
勘弁してよ。
わたしは佐藤さんをご自宅に送り届けると、空を見上げた。
今日は朝から激しい雨だったのに。
この家の周りは、キラキラと晴れていた。
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