0人が本棚に入れています
本棚に追加
送迎担当となった日。
夕方、利用者さんたちを施設から近い順に送っていく。
1人、2人…
最後は佐藤さん。
施設のある場所は片田舎といえど、比較的町の中心部にあり、お店や住宅もぽつぽつとある。
そこから、山道へ入るにつれ、お店はなくなり、住宅の間隔は空いていく。
道路の舗装もいつの間にかなくなり、外灯もなくなってくる。
佐藤さんを送迎する時は、常に他の送迎車よりも早めに出る。
うちの施設利用者の中で一番遠い佐藤さんのお宅は、山の中にあった。
道は木で覆われ、幅はワゴン車が通るのがやっと。
他の車とすれ違うことや、Uターンをすることはムリそう。
何でこんな辺境の地に住む老人の施設利用を許可したのか…。
送迎のたびに、担当者に恨み言を言いたくなる。
とりあえず、事故のないように安全運転で進む。
何も起こらないことを祈りながら運転していると、ようやく佐藤さんのお宅についた。
佐藤さんのお宅は、広い庭に立派なお屋敷。
お屋敷は西洋風。
佐藤さんのカルテによると、確か奥様と二人暮らし。
老々介護で、奥様の負担を軽減するためとご本人のための利用目的。
ついつい立派なお屋敷に見とれてしまっていると、佐藤さんが座席から声をかけてきた。
「まやちゃーん。車からおりるぞお」
「あ、はいはい。今行きます」
車から杖をついてヨタヨタと降りる佐藤さんの脇を支える。
玄関では、小柄な佐藤さんの奥様が待っていた。
猫のような釣り目に、うしろでまとめたひっつめ髪。
エプロンを付けた奥様はわたしと歩行介助を交代した。
「おかえりなさいませ。
職員さんも、いつもご苦労様です。」
「はい、ご利用ありがとうございました。
今日も楽しく過ごされていましたよ。
お荷物と連絡帳、こちらに置かせていただきますね」
そう声をかけ、佐藤さんの荷物と連絡帳を玄関脇に置かせていただく。
「では、わたしはこれで失礼します」
ペコリとお辞儀をし、玄関を閉める。
閉まる玄関の向こうでは、奥様も頭を下げていた。
最初のコメントを投稿しよう!