デイサービスの佐藤さん

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佐藤さんを無事に自宅まで送り届け、車に戻ると簡単に車内の点検を行う。 主に忘れ物がないのか、チェックする。 もし忘れ物があれば、施設に戻りながらご自宅まで届けることになる。 後部座席には、黒いポーチが落ちていた。 確か、佐藤さんがいつも小脇に抱えているものだったはず。 わたしが名前を確認すると、ポーチの裏側に小さく『サトウ』と書かれていた。 わたしは佐藤さんのご自宅に引き返した。 忘れ物に気が付いて良かった。 送迎という仕事で来るには良いけれど、忘れ物を届けに来るのも、引き返すのもあの道は嫌すぎる。 佐藤さんのお宅のチャイムを押す。 音は鳴るけれど、返答はない。 何度かチャイムを鳴らす。 …やはり返答はない。 ドアノブを回してみても、鍵がかかっているようで、ガタガタいうだけ。 「佐藤さーん」 声をかけてみるも、返答なし。 聞こえないのかな? 仕方なく、裏へ回ってみることにした。 お庭の方へ回ると、部屋のカーテンはピッタリと閉まっている。 何とか中の様子が分からないかな。 うろうろしていると、隣の部屋のカーテンが少し開いていることに気づいた。 隙間から中を伺う。 その部屋は、応接室のようだった。 洋風な部屋に、一対のソファとテーブル。 壁には大きな風景画が飾られていた。 立派な大木に零れる光。 どことなく、佐藤さんのお宅に向かう風景に似ていた。 と。 佐藤さんが奥様と部屋に入ってきた。 「佐藤さん」 窓の外から声をかけるも、わたしの声は聞こえていない様子。 佐藤さんがついていた杖を絵に突き立てた。 すると、辺りは佐藤さんを中心に一瞬強烈な光に包まれた。 強い光が目に痛い。 目を細めた私が見たものは。
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