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強烈な光の中心にいる佐藤さん。
丸まった背中がしゃんと伸び、二回りくらい大きく見える。
白い髪は黒々と光、頭には何となく角のようなものが見える。
着ているものも、よれよれジャージではなくて。
体型にあったズボンにトップス。
マントも出てきて、バサッとなびかせている。
どこからか風も吹いてきて、風になびかれた洋服から、がっしりとした肉付きがはっきりとする。
わたしは、いつか漫画でみた魔王を思い出した。
反対に、隣にいた奥様はみるみる小さくなり。
やがて黒猫になってしまった。
杖が突き立てられた絵は、
杖を中心にだんだんと円を描くように歪んでくる。
やがて、額縁の向こうに真っ暗な闇が現れた。
黒猫となった奥様は、ぴょんと闇の中に飛び込んだ。
そのあとを佐藤さん、否、魔王も追う。
ふいにこちらを振り向き、目が合う。
いつもの色呆け爺の顔ではなく、若返った肌。
凛々しい目。
完全に別人だった。
魔王は、長い人差し指を口元に持ってくる。
遠目でも分かる。
内緒、ね。
闇の中に消えた猫と魔王。
しばらくすると、闇は消え、先ほどの風景画に変わっていた。
わたしは持っていたポーチを落とし、車に駆け戻っていた。
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