1 隙間の妖精ブルーニー

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1 隙間の妖精ブルーニー

 うららかな春の日の午後でした。  空にはわた雲がのんきに渡っていて、ときおりお日様と交わると辺りはいつぺんに暗くなりました。 「いーち、にーい、さーん、しーい……」  半分は野っ原、半分はイチョウの林でできた公園で、少年少女たちが、かくれんぼをしています。  ある子は太いイチョウの幹の影に隠れ、ある子はベンチの後ろに隠れ、またある子は公園をぐるりと一周囲んだ、ツツジと丸木の柵の隙間に隠れました。ツツジは緑にもえ花を咲かせていたので、隠れるにはもってこいでした。  隙間に隠れる少年の名は草壁(くさかべ)立夏(りっか)といいました。  立夏は隙間に体をくねらすようにして隠れ、さすがにここは見つかるまいという思いと、近くにやってきたのならもしや見つかってしまうのではないかという思いとを繰り返し考えていました。 「ここのつ、とう! よし見つけるぞー!」  おに役の子がはりきって公園全部に聞こえるように声を張り上げました。 「…………」  立夏に緊張が走ります。  やはり見つかってしまうのではないか? そう思え、より深い隙間へと後ずさりました。そのとき何か枝のようなものを踏んづけました。 「いたっ!」  お尻の方で声がします。  立夏はビクッとし、体をよじって振り返りました。——振り返りざまツツジを揺らしましたので、花から良い香りがこぼれました。  しかし、そこには誰の姿もありません。あるはずはないのです。誰もいないのを確認してから隠れたのですし、また立夏は精いっぱい隙間の後ろに隠れましたので、どんな子だってそこにおさまるはずはなかったのです。 「ちーちゃん見っけ! きーくん見っけ!」  おに役の子は次々と隠れていた子を見つけ出します。そしてどんどんこちらの方へとやってきます。  立夏は身を固め、もう精一杯だというのに、また一歩後ろへ隙間の方へと身を縮めました。 「いたっ! いたいというとろうに!」  こんどこそ聞こえました。空耳なんかではありません。風邪でもひいている人のようにガラガラ声です。痛みを訴えただけの言葉なのに、不思議とそれはおごそかな言葉として立夏の耳に届きました。まるで王様のように。 「だ、誰なの!? ことちゃんでしょう?」  立夏は一番仲良しの窓狩(まどかり)琴葉(ことは)のことを呼んでいました。が、もちろん琴葉ではないことはわかっていました。先ほども説明しましたが、そこには誰であろうと隠れるような広さはなかったからです。  立夏は少し怖くなりました。琴葉のことを呼んだのも、すぐそこで声をかける何者かが琴葉であれば、どんなにほっとするだろうと思ったからでした。 「…………」  立夏がゆっくりと振り向くと、今度は誰もいないなんてことはありませんでした。  そこには、不思議な姿をした(立夏はとっさにそう思い浮かべました)が見てとれました。
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