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寂しいといわれ、なるほどと立夏は思いました。確かに自分自身の胸の内がツンとしていることに気付いたからです。
「……うーん」
立夏は、では誰とならいっしょにこの景色を眺めたいかと考えました。
夕暮れ色はだいだいから赤の色を濃くにじまして、刻々とその容貌を変化させていきました。
立夏の心のうちにある人物の笑顔が浮かびました。
なるほど、たしかにその者と今の景色を眺めて同じ気持ちになれたのなら、どんなにいいかわかりません。
「琴ちゃんだ! 琴ちゃんとこの景色を眺めて同じ気持ちになれたのなら、僕は本当に嬉しいだろう。嬉しいなんてものではない、どんなに幸せかわかりやしない。……でも不思議だ。どうしてブルーニーにはこのことがわかったの?」
「長く生きれば自ずとわかるものじゃ。気持ちというものは妖精であろうが人間であろうがかわりはないからの。わしも何度となくひとりで夕日を眺めたかわかりやしない」
立夏にはそういうブルーニーが、寂しげに見えました。そして胸をツンとさせた立夏にはその気持ちがよく分かりました。
立夏はおもむろにブルーニーを抱き上げました。抱き上げて、窓の縁のところへ立たせました。
「これも夕日だよ」
ブルーニーは一度立夏のことを見つめ、また窓の外へ目を向けました。
「……ふむ。一度として同じ景色のない夕焼けか」
ブルーニーはじっと黙って景色を眺めました。そしていいました。
「いいもんじゃの」
ふたりはしばらく黙ったままでいました。
いつのまにか立夏の胸のツンとしたものは消え失せ、かわりにやさしい何かでいっぱいに満たされていました。
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