1 隙間の妖精ブルーニー

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 怖いなんてことはこれっぽちもありませんでした。このヘンテコ者の姿を見て、怖がる子なんてどこにもいないと思われました。  身長は立夏の腰元くらいしかありません。頭と身体がくっついたダルマのような全身から、棒きれのような細っこい手と足が伸びています。身体のてっぺんからは髪の毛なのか、茶色いコンブのような紐状のものが垂れて、全身をおおっていました。コンブの間から覗く瞳は、とても大きく、顔の半分ほどをしめていました。目尻のしわは、悲しいように、なげいてでもいるみたいに、深く垂れ込んでいました。  そして、背中には赤褐色にくすんだ小さなマントをまとっています。こんなみすぼらしい姿をした者が、マントをまとっている様はいかにもこっけいに見えました。  立夏はまじまじとこのを見つめました。 「やっくん見っけ! ことちゃん見っけ!」  かくれんぼは続いていましたので立夏は小声で、このヘンテコ者にいいました。 「足を踏んづけたみたいでごめんなさい。ところで、きみはなにものなの?」 「うむ、わしは隙間の妖精ブルーニーじゃ」  立夏はいよいよ安心しました。  読書家の立夏はブルーニーのことをよく知っていました。  ブルーニーは、家に住み着き、家人のいない間に掃除や家畜の世話をする善妖精です。「隙間の妖精」といった意味はわかりませんでしたが、立夏はとにかくブルーニーなのだからと、すっかり安心してしまいました。 「あとはりっちゃんだけ! りーっちゃん、どこいるのー?」  立夏がこんなに不思議な体験をしている間にもかくれんぼは続いています。  立夏はよいことを思いつきました。このまま隠れていてもいつかは見つかってしまうでしょう。ずっと見つからない方法をこの妖精ブルーニーなら、なにかしら知っているのではないかと思ったのです。 「ブルーニー、ひとつお願いがあるのだけれど」 「なんじゃ?」 「ぼくは今、ご覧の通りかくれんぼをしているのだけど、もしかしてきみ、いつまでも見つからない方法や場所を知っているのではないだろうか? ぼくの体を透明にするとか、君のとおり名の通りどこかのにかくしてもらうとか」  ブルーニーはたれ込んだ瞳を空に向けた後、大きくうなづきました。しわがれ声でいいます。 「うむ。お前を透明にすることも、にかくすことも、まあ、できる」 「では、隠しておくれ。急いでいるんだ、もうじきここも見つかってしまうもの」  ブルーニーはしばらく考えているようでした。  立夏は気が気ではありません。おにの子がツツジを挟んだすぐそこまでに来ていたからです。  しかしブルーニーは大きく首を振りました。 「それはおすすめできんな。おまえみたいな子どもがどこかに隠れたいなんて思うものではない。かくれんぼはな、見つけてもらえるから楽しいのじゃ。ほんのちょっとの間のひとりぼっちを楽しむ遊びなのじゃ。だからの、本気で隠れてしまってはいけない。本気でひとりぼっちになろうとしてはいけないよ」 「なにをいってるのかわからないよ。今ちょっとだけ見つからなければいいんだ、方法があるのなら隠してよ、さあ、ほら。おにがもうそこまで……」 「あ! かごちゃん見つけた! これで全員見っけ!」  とうとう立夏は見つかってしまいました。 「なんだい、ブルーニー、きみは本に書いてあった通りではないね。いい妖精なんてうそだ。意地悪な妖精だ」  こういったとき、そこには誰の姿もありませんでした。先ほどまでいた、へんてこな妖精の姿はどこにもみとめられませんでした。  ただ空っぽの隙間があり、辺りにはツツジのいい匂いが漂っているばかりです。
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