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2 提案と頼みごと
家に帰ってから、立夏は妖精にまつわる本をかたっぱしから引っ張り出して、ブルーニーのことを調べました。記憶の通りブルーニーは人間の家に住まい、人のいないときに、家の世話をする者とありました。いくつかあった挿絵も確かに、昼間見たあのヘンテコな姿を現していました。隙間の妖精と名乗ったことから、隙間についてなにかしら記述はないかと調べましたが、そこに触れている本はとうとう見つかりませんでした。
そして夕飯のときでした。
「立夏、醤油が切れちゃったから、ちょっといって買ってきておくれ」
立夏は考えていたことがあり、お母さんのこの申し出は好都合でした。
考えていたことというのはヘンテコ妖精ブルーニーに、もう一度会えないかということでした。会って、ある提案をしたいと考えていたのです。それをするには公園に行かなくてはなりません。公園にゆくのには何か用事が必要であったのです。
月夜でした。空に十日のお月さまがかかっていて、道路の上に立夏の影が、濃紺色にくっきり張り付いています。
立夏は駆け足で公園にいきました。
そして、例のツツジと丸木の柵の隙間にいきました。
「やあ、ブルーニー。いるかい? いるんだろう?」
立夏は隙間に向かっていいました。
「…………」
辺りはしんとしていて、なんの気配もありません。
十日の月光に、ツツジがうす明るく照らされています。
「ブルーニー、昼間は意地悪だなんていってごめんよ。いいかい、ぼくはきみにとってよい話をもってきたんだ」
辺りはしんとしています。
立夏は少し大きな声を出し、ブルーニーの気を引くようにいいました。
「ブルーニー。きみは住まう家を失くしているだろう。こんな隙間にいるなんておかしな話だもの。そこでどうだろう、今日こうして出会えたのも何かの縁だ、きみはぼくの家に来るべきだと思うんだ。いっしょに暮らそうじゃないか、どうだろう?」
カサカサと風もないのにツツジが揺れました。
夜のなか、ツツジは昼間より濃く匂っています。
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