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やがてブルーニーは姿を見せました。
ブルーニーは月の明かりに照らし出され、昼間見たときより尊大に見えました。小さなマントもこっけいなんてことはなく、夜風にたなびき、ちゃんと似合って見えました。
しわがれた低い声でブルーニーは話し出します。
「おまえは昼間の子どもじゃな。なるほどわしらのことをちっとはわかっているようじゃの。確かにわしらは本当なら人間の家に隠れて住まう者じゃからな」
立夏は嬉しくなりました。
「うん、本にもそう書いてある。で、どうだろう? ぼくの申し出は?」
立夏は目を輝かせながらたずねます。
「……うむ、良いだろう。おまえの家に住まうとしよう。しかしわしらは本来、人の前に姿を見せるものではない。騒がしくされるのはかなわんからの。じゃからおまえもわしのことを拝聴してはならない。わかるの?」
「ふいちょうってなに?」
「他の人に話してしまうことじゃ」
立夏は少しがっかりしました。今すぐにでもお父さんやお母さん、妹にブルーニーが本当にいることを話したいと思っていたからです。でもがっかりしたのは少しです。あくまでも立夏の関心はブルーニーそのものであったからです。
「うん、わかった。きみのまわりをさわがしくすることはないようにする。これでいいかい?」
「うむ、良いじゃろう。では」
ブルーニーはぴょんと飛び跳ねると立夏の隣に立ちました。
公園の地べたに、二人の影が、色濃く落ちていました。
そういえば、お母さんに頼まれた買物がまだでした。
立夏はふいに思いついてブルーニーにいいました。
「きみは家の掃除とか手伝いをするんだったよね?」
「その通りじゃが」
「……ぼくは今お母さんの頼まれごとで醤油を買いに行くんだけど、そういうのきみに頼んでいいのかな?」
こういったものの、立夏は醤油を買ってきてほしいのではありません。いったいどうやって醤油を買ってくるのか(こんな姿のままでなのか、でなければ人に化けるとかをするのか)に興味があったのです。
ブルーニーは、垂れ下がった瞳を立夏に向け、いいました。
「いや、それはだめじゃ。わしらは家の手伝いをするんじゃ。けして人間の手伝いをするのではないからの」
「どんなに頼んでも?」
食い下がる立夏に、ブルーニーは少し面倒なようにいいました。
「おまえには姿をさらしているわけじゃし、そこまで頼めばやってやらんこともないが、醤油の買物がそこまでの頼み事とは思えないがの」
なるほどその通りだと思い、立夏は自分で醤油を買いにいきました。
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