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次の日の朝、祐里は迷子の森を開いてみた。自分の悩みは…あったが、回答どころか閲覧すらつかない。良いように考えたら、自分の悩みは取るに足らないちっぽけなものなのだと思いたいが、祐里の投稿した前後の悩みにはしっかりと回答がついている。祐里はなんだか無視されているような気分になり、いつものように1人で大学に行った。
学食で1人昼食を摂っていると、聞き覚えのある声がした。同じゼミの村上沙苗(むらかみさなえ)も友人たちと学食に来ていたのだ。沙苗はお喋りに夢中で、近くにいる祐里には全く気がついていない。複雑な思いで過ごしていると、沙苗がこんな話を始めた。
「もうすぐ親の結婚記念日なんだよね。何かプレゼントあげたいんだけど、いいのないかな?」
友人たちも一緒に考えてくれているようだが、案が思い浮かばないようで結論が出ないまま沙苗たちは学食を後にしていた。祐里は自分だったらどうするか…を考え、軽い気持ちで迷子の森を開いたのである。
タイトル:結婚記念日
もうすぐ両親の結婚記念日なのですが、何をプレゼントしたらいいか全く思い浮かびません。アドバイスよろしくお願いします。学生なので、金銭的に無理のなさそうなものだとありがたいです。
昨夜の悩みは閲覧すらされなかったし、今度も似たようなものだろう。祐里はそう思い、食事を終えて午後の講義に向かった。つまらない講義の後で祐里がスマホを見ると、迷子の森から通知が来ていた。
「お悩みに回答がきています」
祐里が迷子の森を開くと、先程の悩みに3件回答が来ていたのだ。自分の悩みとはえらい違いである。
「気持ちで充分だと思います」
「ペアのワイングラスはどうでしょうか?雑貨屋だと、オシャレで安いやつありますよ」
「ご両親の好みがわからないとなれば、商品券関係が無難だと思います」
短時間で3件も回答が来るなんて、このサイト利用者はかなり多いらしい。回答の下には注意書きがあり、最も参考になったものを「ベストアンサー」として回答を締め切るのがルールとされていた。祐里はどうせ自分のことじゃないしと思いながら、一番具体的に答えてくれたワイングラスを提案した回答者をベストアンサーとした。
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