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デート4
「ここの動物園って、シロクマ押しだよね」
シロクマの展示の前に来た千尋が武史に言った。
この動物園は入口から、平和を意味する名前をつけられた一頭のシロクマを全面に押し出していた。
「知らんのか?日本で初めて人間が育てたシロクマがおるんやで」
「そうなんだ!知らなかった」
感心したように、プールの中を泳いでいるシロクマを見つめる。
たまたま、そのシロクマがプールで泳いでいるところだった。
しばらく見物したあと、せっかくだからシロクマのグッズを買いたいという千尋と土産屋を覗く。
千尋は普通の県の名産品である柑橘類を被ったぬいぐるみとホワイトタイガーを被ったぬいぐるみで迷っているようだ。
「迷ってるんか?」
「うん、どっちも可愛くて」
にらめっこしながら、どちらにしようか迷っている千尋の手からぬいぐるみをヒョイと取り上げると武史はレジの方に向かう。
「買うたるわ」
「え?」
スタスタとレジに向かう武史を慌てて追いかける。
「えっ?タケちゃん?なんで?」
サッサとレジを済ませた武史は店を出る。
「いらんのか?」
「いるけど、でも……」
「じゃあ誕生日プレゼントやと思ったらええわ」
千尋は根負けしたように笑う。
「誕生日2月だよ、私。もう4ヶ月前だよ」
千尋の誕生日がいつなのか武史が尋ねると、2月14日と答える。
「バレンタインデーだから、あげるばっかりで男の人からこの日にプレゼント貰ったことないけどね」
「じゃあ、俺があげるわ。今年の誕生日プレゼントあげとらんし」
おめでとう、と言いながら真面目な顔をしてぬいぐるみを渡してくる武史。
千尋は受け取るしかなかった。
「ありがとね。タケちゃんの誕生日、期待してて」
武史に聞くと、誕生日は12月24日だった。
「ちゃんと誕生日とクリスマスのプレゼントは分けてや。いつも一緒くたにされるんや」
「もちろん!期待してて」
「酔い止め飲んどきや」
そういい、家の方へ車を走らせる。
行き道とは違う海沿いのルートを選んだ。こちらの方が時間はかかるが、道が平坦で途中で休憩する場所もある。
後部座席には焼物と、動物園で買ったシロクマのぬいぐるみが2つ置いてある。
千尋が酔わないように、また焼物を割らないように丁寧に運転を続けた。
途中の道の駅で一旦休憩を取る。車酔いはしていない様子の千尋は道の駅の向かいにある海へ行きたがった。
「海だ!」
今にも走り出しそうな千尋は、海を見て喜んでいる子犬のようだ。
ちょうど夕暮れ時のため、海がオレンジに染まっている。
波打ち際まで寄っていった千尋は、海の先に見える島を見ているようだ。
「今日はキレイに見えとんか?」
からかうような口調で千尋に問いかける。答えは聞くまでもなくわかっていた。
「ちゃんとキレイに見えてるよ」
千尋も笑顔で答える。
「ならよかったわ」
そう言いながら武史はいつもの癖でタバコを咥える。
「今日初めてだね、タバコ吸うの。最近私の前で吸わないようにしているでしょ」
図星だった。少しでも柳田のことを思い出させないように、極力千尋の前では吸わないようにしていた。
「気のせいや」
言葉では否定するがバツの悪そうな顔で話すため、説得力がない。
「流石に私だって気付きます!」
そう口を尖らす千尋は、ふと真顔になる。
「もう大丈夫だよ。まだ思い出には出来ないけど、ちゃんと過去の人になってきているから」
「それならええ」
「だから気にせずタバコ吸ってよ。まぁ健康のためには辞めたほうがいいけどね」
「辞めたらご褒美くれるか?それなら頑張るわ」
「いいよ。私に出来る事なら」
安請け合いする千尋に少しだけ踏み込んでみる。
「ええんか?そんなに簡単に引き受けて」
「タケちゃんなら無茶なこと言わないでしょ?だから心配してないよ」
安心しきったように笑顔を見せる千尋に、武史は関東にある夢の国に行きたいと伝える。
ささやかな願いに千尋は吹き出してしまった。
「行ったことないんや。ああいうところは出来れば女性と行きたいけんな」
「なら彼女作って行きなよ」
「千尋と行きたいんや」
「え?」
まさかの言葉にドキリとした。夕日のせいか武史の顔がはっきり見えない。
先程の言葉の意味はどういうことなのか、確認しようと口を開いた時に武史が言葉を発した。
「彼女なら色々気にかけんとあかんしな。その点千尋なら気使って喋らんでええから楽や」
からかうような口調で言う武史にホッとする。
「絶対いい意味で言ってないよね?それ」
「気のせいや。俺は口下手なほうやけん、長時間並ぶところに二人きりでおるんはよっぽどじゃないと出来んからな」
名残惜しそうに最後のケムリを吐き出すと、余ったタバコを千尋に渡す。
「さくら来たときに渡してくれや。秀樹に残りはやる。……帰ったら本体も処分せんとな」
「え?本当に辞めるの?」
おう、と短く答えた武史は、付け加える。
「ご褒美忘れんといてな」
とりあえず半年辞めれたら一緒に夢の国に出掛けよう。
何となく約束の指切りをして、帰路についた。
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