似た者姉弟5

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似た者姉弟5

今までの恋愛観についても武史は話した。生死が隣り合わせの仕事だから、一人でいようと心のどこかで思っていたこと。 だから、彼女が出来てもその子のために自分を変えようとしたくはなかったこと。 「秀樹には本気で惚れてないからや、って言われたわ。悔しいけどあいつの言う通りやったわ」 「タケちゃん……。私、そんな想われても応えられないよ」 「ええんや、俺が勝手に好きなだけや。まぁ受け入れてくれたら嬉しいけどな。 俺らは親戚やから、千尋が断っても縁は切れん。やけん、恋愛感情抜きにしていつでも頼ればええわ」 武史はいつもと変わらぬ笑顔を千尋に向ける。 千尋は胸を締め付けられる思いだった。 泣き止んだと思ったのに、また涙が溢れてくる。 武史は黙って千尋を胸に抱き寄せた。 「イヤか?こうされるの」 無言で首を左右に振る。 「なら良かったわ」 僅かに腕に込める力を強める。耳元に唇を寄せて囁く。 「前ここで泣いとった時は柳田さんのことやったな。今日は俺のことで泣いとるって思っていいやんな?」 今度は縦に首を振る。 よかった、という武史は耳元で囁く。 「千尋が飲みたい言うたやろ?あれな、凄い嬉しかったわ。今日みたいに自分の気持ち出してええんや。楽しいこともしんどいことも千尋とやったら共有したいけん」 武史は千尋が泣き止むまで抱き締めていた。 「もう大丈夫。ありがとう」 泣きすぎて枯れた声で武史に伝えると、名残惜しそうにゆっくりと体が離れる。 「ちゃんと泣けたか?」 千尋はこくりと頷く。 どれくらい長くいたのか分からないが、夜の海風は体を冷やす。 まだ一緒に居たかったが、これ以上ここに居たら風邪を引きそうだ。 「帰るか」 武史は立ち上がり、千尋に手を差し伸べる。 千尋は中々武史の手を取らなかった。 「どうしたんや?」 気分でも悪くなったかと思い、しゃがみこんだ武史は千尋の顔を覗き込む。 千尋は不思議な表情をしていた。 自分の感情をどう扱ったら良いのか分からないような顔。戸惑い、困って武史を見る顔が、迷子のように不安げだ。 するつもりはなかった。 だけど気づいたら千尋の頬に手を添えて、キスをしていた。 親が子に安心を与えるような、慈しむような優しい口づけ。 唇を離した時、少しだけ混じった安堵の表情に武史はホッとする。 「悪い。思わずしてしもた」 間髪入れずに千尋が首を左右に振る。その勢いに驚く。 「どうしたんや?さっきから変やで?」 何故か千尋は顔を真っ赤にしながら、口を開く。 「タケちゃんは、私が本音言うのは嫌じゃないの?」 千尋の質問の意図がわからないまま武史は答える。 「むしろバンバン言うて欲しいわ」 「それが今だけの気持ちだとしても?……明日には変わっているかもしれないよ」 「それでも、今はそう思っとんやろ?嘘じゃないならええよ。俺かて明日になったら気持ち変わっとることやてあるしな」 何度か息を吐く。まだ迷っているようだ。 武史はよく分からない表情をしながらも、千尋の気持ちの整理がつくまで待つ。 千尋は赤い顔のまま、早口で武史に伝えた。 「まだ帰りたくない。もっとタケちゃんと話したい」 一瞬驚いた表情をした後に武史の顔に広がったのは喜びだった。 その顔に千尋はホッとした。 「嬉しいわ。もっと喋ろか。……でもここは少し冷えるから場所移動するか」 そう言って武史は時計を見て考え込む。 もう既に23時近い。 この後話すとなると、空いているところは数少ない。 「どこならええかな。カラオケは今盆やけん、混んどるやろうし。飲み屋もこの時間ならチェーン店くらいやもんなぁ。 あとはBARというかスナックというか」 「お酒出すところは、今日はもういいよ」 「なら、カラオケか……。入れるかどうかわからんが行ってみるか」 武史の言葉を否定するように千尋は首を振る。 「カラオケは嫌なんか?せやけど、他に思いつかん」 「……ホテル行こ」 蚊の鳴くような声で千尋は囁いた。うっかりしていると波音に消されそうな小さな声。 それでも、武史の耳には届いた。 「……手出さん自信ないぞ。というか間違いなく求めるわ。……分かって言いよんよな?」 俯いた千尋は夜目でも分かるくらい耳まで真っ赤だ。それでもキチンと肯定の意を伝える。 武史は千尋の手を握り立ち上がると、逸る気持ちを抑えながら車へ向かった。
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