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似た者姉弟6
行為後のぐったりしている千尋をベッドに寝かせる。疲れたのか半分夢の中の千尋は武史のなすがままだ。
先程の余韻に浸るように武史は起こさない程度に千尋に触れる。
おでこに、閉じている瞼に唇を寄せる。
そっと指先で頬を撫でる。
そして、風呂でつけたキスマークにも。
無防備に武史に眠っている姿を見せていることすら愛しい。
(ずっと見ときたいわ)
心底千尋に惚れている。千尋に再会する前と後では仕事への取り組み方も変化していた。
高校生の時のクラスメートの死から、どこか人に線を引いて付き合っていたところがあった。
特に女性関係は結婚という風にならないように、ある意味ドライな付き合いをしてきた。
いつだったか、別れる時に言われたことがある。
『武史は誰にでも平等やけど、付き合っていても特別扱いしてくれんよね。私は武史の特別になりたかったのに。誰にでも優しいのは、誰でもいいってことと一緒やけん』
もう彼女の名前も朧気だが、その言葉だけは鮮明に覚えている。
死は何となく身近にあった。もちろん死ぬつもりはなかったが普通のサラリーマンより意識する機会は沢山ある。
今までは万が一のことが起きてもありのまま受け入れようと思っていた。自分も自然から命を頂いているから、と。
それに大好きな海の藻屑になれるなら本望だとも。
今は違う。
千尋のいる家に帰りたいと思うし、なるべく長く生きたいと思う。
どこかで諦めていたことも千尋となら共有したい。
「特別なんは千尋だけや」
寝ている千尋を起こさないように、そっと口付けをした。
10分程で目覚めた千尋の顔が見えるように腕の位置を変えると、武史はずっと聞きたかったことを尋ねた。
「避妊せんくてよかったんか?俺はそのまま繋がりたいし、千尋のこと好きやけん、もし子ども出来ても嬉しい。
やけど、千尋はそうやないやろ?」
何度も避妊せずに繋がっていて、先程もゴムをつけなかった。コトが終わったあとに伝えても遅いが、どうしても武史は確認しておきたかった。
「なんでそう思うの?」
「ん?千尋の性格的に、自分が満たされていないから子どもに愛情注ぎきれないって考えそうやなって」
千尋は、困ったような嬉しいような複雑な表情をした後、苦笑する。
「タケちゃんにはそこまでお見通しなんだね」
「当たりか?」
うん、と頷いた千尋は武史に秘密にしていたことを告白する。
「自然には子どもできないと思うから、これからも避妊しなくていいよ」
詳しく聞くと生理不順で病院にかかった際、自然妊娠はかなり難しいと言われたとのことだった。
「生理もたまにしか来ないから人より楽だし、特段妊娠望んでいないから病院にも通院はしてないけどね。
タケちゃん、ごめんね。最初から分かっていたのに黙っていたの」
「かまわんよ。別に知っても知らんくても俺の気持ちは変わらんし。
ただ、子ども出来たら責任とるという考え方で千尋のこと抱いとる訳やないからそれを伝えたかっただけや。出来ても出来んくても俺は千尋の傍におりたい。
それに、柳田さんとはゴム無しで繋がったことはないんやろ?」
うん、と再び頷く。
「なんで柳田さんはダメで俺なら良かったん?」
千尋はしばらく考え込んでいたが、何かを思いついたようにハッとした後、顔を真っ赤にする。
「知らない」
そう言って顔を背けようとするが、そんなことは許すはずも無い。
両手で千尋の顔を挟み込むと再度質問する。
「俺を全て受け入れた理由、教えてや」
真っ赤な顔のまま、千尋は首を横に振る。
武史はその反応で顔がほころぶ。
「知らんはずないやろ?是非とも教えて欲しいわ」
ニコニコしている武史に千尋は恥ずかしそうに伝える。
「わかっているでしょ?」
「わからん。俺はエスパーやないし、千尋の口から言ってくれんと全然わからん。……言うまでこのままやけん」
武史の表情から言わせようとしているのは分かる。こういう時の武史は絶対に譲らないことも、この数ヶ月で実感していた。
真っ赤になったまま、千尋は根負けしたように早口で伝える。
「ゴム、使いかけだったし。……それにタケちゃんが今まで他の人としたことの無いことが良かったから」
千尋はそれだけしか言わなかったが、武史には言葉以上に言わんとしている事が伝わった。
「ヤキモチ妬いとる千尋も可愛いわ」
そう言って唇を塞ぐ。何度も何度も角度を変え、味わい尽くす。
触れれば触れる程、もっと深く繋がりたくなって堪らない。
「千尋……。まだ時間あるし、もっかい繋がろや」
真っ赤な顔のまま、千尋は僅かに頷いた。
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