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 あまり集中できないまま練習が終わり、部室に戻る。まだ彼はいるのだろうかと思う。畑野はまだ練習部屋にいたのだから、事情が変わっていない限り、いるはずだった。  戸を開けると、彼はまだそこにいた。楽器を片付けいる部員たちに紛れて漫画を読んでいる。  一人、また一人と部員が帰っていく。やがて二人は宿題を始めた。 「何の宿題なの?」 「数学」 「確か、畑野君のクラスも、数学は斉藤先生だったよね?」 「ああ」 「私のクラスと一緒だ。私もついでに教えてもらってもいい?」 「佐倉が数学の勉強するなんて、珍しいな」 「一人だとしないから、教えてもらうの」  二人はなにも言わずに、クスッと笑った。  気軽に参加してみたものの、思いの他真面目に勉強しているようだった。授業で出された問題をもとに、熱く意見を交わしてんる。香苗が割り込む隙は、まるでない。 「佐倉さん、さっきから黙ったままだけど」  佐久間に突然名前を呼ばれ、ぎくっとする。まだ自己紹介もしていなかったが、畑野が彼女の名前を呼ぶのを聞いて、覚えたようだった。 「うん……そうだね」 「何かわからないことあったら聞いといたほうがいいぞ」  畑野の言葉に甘えて、彼女は、正直にわからない箇所言った。 「それで、よく今まで授業受けてたなあ」  畑野は呆れたようにつぶやいた。  佐久間君は、真面目な表情を見せる。 「悪いけど、こっちは明日が期限なんだよ。佐倉さんのクラスは?」 「金曜日」 「じゃあ、明日か明後日にじっくりやろうか。それでもいい?」  自分のために特別に時間をとってくれるということなのか。「やったー」と言いたいのをどうにか抑えて、浮かれたことを顔を出さないように、ちょっと戸惑うふりをする。 「そんなに時間かかるかな?」 「今言ったことがわからないってことは、それ以外も全然わかってないってことだろう?」 「まあ、そうだけど……でも、佐久間君は大丈夫? バイトは?」 「明日、明後日は七時からだから、僕はまあ大丈夫といえば大丈夫だけど……」 「まさか部活サボって宿題しようってんじゃないだろうな?」  畑野はにやにやしながら、ついさっきの香苗のセリフを繰り返す。 「だって……」 「まあ、なんとかなる、なんとかする」 「答えは教えてくれないんだもんね……」 「当然だろう」 佐久間は呆れたように言った。 「忙しいのに、そこまで時間を割いてもらっていいの?」 「呑気なこと言ってると、留年するよ」  香苗は思わず頬を膨らませた。けっこうずけずけと物を言うのだなと思った。
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