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「おい、早坂。何オレを遠巻きに見てんだよ」
「やっぱ斉藤先輩はすごいなって」
「当たり前だろ! オレは夢に対して本気なんだから。まあ、お前もオレを見習って頑張るんだな!」
「はぁい」
いつだって自信満々で強気な斉藤先輩が、本当に好きだった。いつか二人の物語を書きたいと願った。プロになれば、きっとそうできると。そのときあたしは、きっと彼に気持ちを伝えるのだと。
「今日も残るのか? 美術部に。暗くなる前に帰れよ、お前女の子なんだか。まあ、どうしても残りたいならオレに言えよ。家までぐらい送るから」
「ありがとうございます」
笑顔でさらりとあたしを気遣う優しさも、ペンを走らせるときの真剣な顔も。
どれもこれも大好きで、愛しかった。だけど。あたしは見た目も中身も凡人だから、美大に進学するなんて事はかなわなくて。無難な女子の多い短大に入って、卒業後就職先に東京を目指した。
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