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「久しぶり早坂」
「斉藤先輩、垢抜けて……!」
あの頃とは違う、ワックスで髪を整えたコンタクトの先輩は都会の匂いがした。
「まるでオレがダサかったような言い方だな」
そう言って斉藤先輩はどこか疲れたように笑った。あたしも笑顔を向け飽いた前の席に座る。案内されたカフェは田舎にあるようなチェーン店と違って、洗礼された場所で。何が書いてあるかわからないような分厚い洋書や食器が飾ってあるところがいかにもオシャレな感じだった。
「作品、どんなの今描いてるんですか? 見せてくださいよぉ斉藤先輩」
「ああ。今度な。それよりさ、取材のためにクラブでも行かない? 東京らしい体験も必要だし」
「確かに、同じ世界にばかり使っていても刺激はないですけど……」
「そうそう。画板に向かってひたすら悩んでてもいい作品はできないからね」
一理ある斉藤先輩の言い方に、あたしは同意する。確かに、狭い世界で生きていては刺激的な作品は作れないだろう。だからあたしは、その日クラブで踊った。ぐるぐると回る世界に、苦手なお酒。ひたすらに無意味にさえ感じる、長い長い時間を、がむしゃらに踊り続けた。
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