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あたしは原稿のコピーを用意して鞄に詰めた。どうしても読んで欲しかった。だって、その物語は先輩とあたしの物語だったから。妄想、と笑われるかもしれない。だけどあたしと先輩の青春をベースに描いた、未来へ夢を持てるような話で。
これを読んだ読者は、未来へ希望を持って、頑張れると口々に言った。嬉しかった。あたしは誰かを励ますことができたのだと。元気を、あげれたのだと。
周りから見ればただの先輩に憧れを募らせた馬鹿かもしれない。あたし達の中には特別な物語なんかなくて。ただあたしが猛烈に斉藤先輩に憧れて夢を見た、それだけの関係なのはわかっていた。
どんなに記憶をあさっても、褒めてもらったぐらいしかエピソードがないぐらい、空っぽな関係なのに。それでも斉藤先輩とその手が作り出す作品は、そこにあるだけでまぶしかった。そばにいつか行けるようになったら。そのとき思い出を作るのだとずっと夢見て頑張った。その結果が今、出たのだ。
(斉藤先輩、斉藤先輩……)
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