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幸いにも座席は自由席だった。
僕は流れるように一番後ろの扉側、僕的一番目立たない席を陣取った。
そう…目立たない…はずだった。
というか目立ってなかったのだ。
ついさっきまでは…
この小説の主人公悪役令嬢ことエリアナ・クローンベルト公爵令嬢が僕の隣の席にご着席なされるまでは!
なぜだ!?なんでそこに座る?
どうする?どうすれば…
今からでも席を移動する?
いやでもそれってなんか凄く感じ悪くない?
僕は突然の事にパニックになる頭を抱えて一人悶ていた。
「あのー貴方…大丈夫ですの?気分が優れないのでしたら保健室までご一緒しましょうか?」
「え?…」
突然の声に顔を上げた僕の目に映ったのは濃い紫色の髪をザ・悪役令嬢ヘアー…縦まきドリルにつり上がった真っ赤な瞳を心配そうに歪めた、キレイ系美少女だった。
僕が本当に男だったら惚れてる…
僕がそんな事を思いながらボーッとしていると、エリアナは「本当に大丈夫ですの?」とコテンと首をかしげながら僕のおでこに手を当て「熱は…ありませんわね…」とつぶやいた。
なんだこのカワイイ生き物は…
男じゃなくても惚れるだろ…こんなの…
僕がポケーとエリアナを見つめていると突如何処からか現れた手が、僕の額に当てられていた彼女の手を掴み、まるで僕の視線を遮るように一人のイケメンが僕たちの間に割って入ってきた。
イケメン…そう…イケメン
サラサラの金髪に晴天のような優しげなブルーの瞳…まるで王子様のような…イケメン…
「やあ…はじめまして。体調が優れないのなら私が保健室まで同伴するからいつでも言ってくれ。」
「はぁ…ご親切にどうも…」
僕は親切なイケメンに軽く会釈をすると、彼の後ろにいるエリアナと話そうと体を少し後ろに倒す。
するとそれを更に遮るようにイケメンが一歩後ろに下がり「自己紹介がまだだったね。私はアレンディス・ルクセンハルト。そして彼女はエリアナ・クローンベルト僕の婚約者だ。」と言ってニッコリと笑った。
まるで牽制するように…
「あ…え…」
エリアナの婚約者…そしてその名前!
この国の第一王子にして最もエリアナを愛する超優秀剣士!
なんでそんな人が僕に自己紹介を!?
僕は口に仕掛けた問を飲み込み、
こちらを威嚇する王子殿下に「あ…僕はレイス・カフィアです…」と簡潔な自己紹介をした。
ところで正気に戻り、そりゃそうだ!最愛の婚約者が他の男(男装してるだけ)とこんな近い距離にいたらそりゃ牽制する。逆にしなかったら一発殴る…
「カフィア…ああカフィア男爵家の…」
「カ、カフィア!あの…もしかして…妹ぎみがいらっしゃったりは?」
僕の自己紹介に、王子は興味が無さそうに頷いた。
一方エリアナは王子を押しのけて互いの鼻がくっつきそうな距離までグイッと詰め寄った。
そんなエリアナに、僕は「近い…です…」と小声でつぶやきながら体を少し後ろにずらした。
王子も王子ですぐに彼女の肩を引き寄せた。
「そんなに、彼が気になるのかい?」
「ち、違いますわ!彼の家…カフィア家には私達と同い年の御令嬢がいらっしゃるはず…」
「?カフィア家の御令嬢と面識が?」
「い、いえ…そういう訳では…ただカフィア家の御令嬢はとても可愛らしい方だという噂をお聞きしたもので…」
「私の知る限り、社交界やらで顔を見せていたのは彼一人だったはずだ。それに御令嬢がいるならデビュタントで挨拶を交わすはずだから、私が知らない事はないと思うよ。」
「ええ?でも…」
二人の会話を耳にの端で聞きながら
そりゃ…デビュタントしてないしね…
そんな金我が貧乏男爵家には無いし、そもそもやると言われても断固拒否する。
だってそんなことしたら勘違い大作戦が始まる前に終わってしまうじゃないか。
ウンウン…
一人で納得したように頷く僕に王子が「そうだよな?」と確認してきた。
それに「そうですね。僕は一人っ子ですので。」と答えた。
こう答えれば嘘は言っていない。だって僕が男なんて言ってないし、令嬢がいないとも言っていない。
つまり完璧。
我ながら完璧な返しに満足していた僕はエリアナが殿下にも聞こえないほど小さな声で
「そう…ですのね…では?私は断罪されない?何もしていないのに?断罪回避?」と考え込んでいたのに気づかなかった。
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