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絶走/その17
逆ナンの女
静人はただ歩き続けていた。一応、家に向かってはいるつもりだが、なぜか知らない道を選んで結果的に遠回りをしている…。
”せっかくあの子を忘れようと踏ん張ってるのに、あの男め…!”、彼は体中の血が沸騰しそうなくらいカッカとしていたが、それはどこか心地よい気分でもあった。とにかく、なんか変な感じだった。
すでに1時間近く歩いたところで、さすがに喉が渇いた。自販機で買ったスポーツドリンクがとてもおいしい。火照った体の中を冷やす作業でこれほど爽快になれるなんて…。
...
静人は夕暮れ間近の夕日を体全体に浴びているうち、頭と心の中から消し去れない麻衣の存在の捉え方が、わずかながら変容しているのに気付いた。
昨日、あの子の口から聞いたこと…。自分にとってはショッキングだった。でも、心のこもった厳しい言葉に違いはなかった。それは、あの日同じ場にいたイノシシやチビの先輩は聞くこともできんないんだ。
彼女はオレが、”あの時”、ああいった目で自分を見つめていた心を感じ取った上で、あの言葉を発してくれたんだと…。
そういう視点で捉えたら、体が軽くなった。”そうさ、彼女は焦らずにって言ってた。一気にでなくてもいいんだ。よし…!”、静人は確かに、自分の中でのモードチェンジのきっかけを掴んでいた…。
...
夜6時少し前、W駅の前に着いた。静人はなんとなく駅のロータリーで一休みすることにした。すでに周囲は暗く、車のライトと街燈がその輝きを全開にできる時間帯となっていたようだ。
ロータリーのパイプフェンスに腰を下ろして5分ほどすると、静人のほぼ正面に、赤のラングレーが徐行しながら通過した。瞬間的だが、助手席の若い女とは目が合った。
その車は彼の前を通り過ぎて少しすると停車し、助手席の女が降りてこっちに向かってくる。スマートな体形の20代半ばと見受けられる女性は会釈をしている。だが、静人には見覚えがなかった。
「やあ、こんばんわ。おたく、静人君ですね?」
まるで女子アナのような美声で滑らかにあいさつをされたが、誰だろう、この人は…。なんでオレの名前を知ってるいのか…。だが、割とかわいい女性ではあった…。
...
「私、ルーカスでよくあなた達を見かけてたのよ。あなたはいいんだけど、いつも一緒のあの二人はNGなんで、一人の時に声をかけようと思っていたから、私たち…」
”私たちって…、ああそうか、運転していた子かな”、静人はロータリーでファザードを焚いているラングレーをちらっと見やった。
「どう、これからドライブしない?」
「…」
「ふふ…、恐いの?」
「いや、でもなんか急だし。偶然にしてはちょっとってね」
「まったくの偶然ではないのよ。通りを歩いてるの見かけて、あなただってわかったから、様子を見てたの。駅に向かってるようなんで、時間見計らってぐるぐる回ってて。そしたら、まるで私たちを待ってるかのようにロータリーでねえ…(笑)。だからさ、私も勇気を出してこうやって声をかけてるのよ」
その女性は、はにかんだ表情にいたずらっぽい笑みをミックスさせて、どこか人を惹きつける雰囲気を持っていた。
昨日の今日だし、気晴らししたかったんだから、渡りに船ってことか…。静人は誘いに乗った。それは、彼にしては珍しく大胆な決断だった。
...
「じゃあ、ドライブ頼むよ…。あの車?」
「うん。私の友達もあなたとは話したがってるから。まあ、両手に花でいいでしょ?(笑)」
静人は単純に心が弾んでいた。年上のきれいな女性に声をかけられるなんてめったにないことだし、麻衣を忘れるには格好のシチュエーションだ。これまた、いつもは苦手なポジティブな気持ちにすんなり持っていくことができたのだ。
...
「せっかくだから、あなたは助手席どうぞ。私は後ろ乗るから…」
「ああ、じゃあ、お邪魔します…」
「どうも、初めまして」
運転席の子は髪が長く、一目で胸がでかいのが分かった。まあ、魅力的なお姉さんだ。彼は両手の花が合格点を軽く越えたことを確認でき、妙な安心感を覚えていた。
...
まずは車内で互いの自己紹介を済ませた。運転席の子がタカコで後ろの子はサキという名だった。静人の名は運転してる子も承知していた。
「とりあえず、私たちのたまり場に行きましょうよ」
車がロータリーを出たところで、後部座席のサキが運転席と助手席の間に身を乗り出し、そう提案した。
”たまり場…”
静人にとってはあまりいい響きではなかった…。
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