起の章

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起の章

絶走/その2 きっかけ まさに木枯らし一号の強風を正面突破するようだった。 黒い革ジャン姿の麻衣はバイクを走らせていた。約束の時間まではまだ余裕があったが、どうしてもいつもよりスピードを上げてしまう。 そんな自分が抑えられなかった。今日はやはり、”特別”に感じるものがある。それは割とはっきり意識できていた。 ... 今日、目指している場所に赴くことになったのは、先週金曜日の出来事がきっかけだった…。夕方6時過ぎ、いつものようにヒールズで開店の準備をしていると、入り口の扉が空いた。 「あ…、いらっしゃいませ。あのう、まだ開店前なんですが、お客様ですか?」麻衣はややぎこちない言葉になっていた。 無理もない。何しろ、店の入り口に立っているのは、若い女…、 そう、年は20歳前後の、いわば自分とさして変わらない女が一人だったのだ。 麻衣とはほぼ同じ背恰好でポニーテールが似合う、化粧っ気のないその若い女が、いわゆる”通常”の客層ではないのは一目瞭然だ。ここは一応スナック風の店なのだから…。 ... ”ああ、もしかしたらこの店で働きたいとか、そっちの類かな…”、そんなことをアタマに浮かべていると、入り口で突っ立ったままの若い女は口を開いた。 「あのう、本郷麻衣さんですか?」 このヒールズでは、”豹子”を名乗っている。どうやら用件は”この店の私”に対してではないようだ…。麻衣はとっさにそう考えた。 「この店では”豹子”ですけど…。まあ、本名はあなたの今言ったとおりよ。…それで、どんな用件かしら」 「あのう、私、ある人から伝言を頼まれたんです。今、お時間、大丈夫でしょうか?」 「ええ、まだお客さんが来る時間帯じゃないから、少しならね。どうぞ、中へ入って…」 麻衣はその若い女をカウンターの椅子に案内した。 「私は中野好美と申します。短大1年で19歳です」 ”ごく普通の若い女性だし、そう用心する必要はないかな…”、麻衣は第一印象でその想いに達し、まずは最低限安堵した。 何しろ、相和会幹部の剣崎や麻衣のガードで雇われていた鹿児島ミカには、見ず知らずの人間からの接触にはくれぐれも警戒するようにと言われ続けて行きた。それこそ耳にタコができるくらいに…。最近では初対面の人間へは最初に見定めすることが習慣ついていて、今ではそれが条件反射的レベルに至っていたのだ。 ... 「実は私、ジャッカル・ニャンのオープンスタッフでバイトしていたU子とは高校の部活で一緒で、先輩にあたるんです。今でも仲良くて時々会ってるんでけど、先日、ある相談を受けて…」 ”ジャッカル・ニャン”…、この店の名を聞いた途端、麻衣は頭の中の思考モードをチェンジさせた。 「…U子はもうバイトを辞めているんですが、その後、店の責任者らしき男の周りにいた男が言いがかりをつけてきて、トラブルを抱えちゃってるんです。ガラの悪い連中が経営してる店だったのはオープンしてすぐ感じ取ったらしいんで、数日で辞める申し出をして、その時は働いた分の時給をもらってそのまま終わったらしいんですが…」 麻衣はここまで聞いて、”やっぱり…”と心中で呟いていた。オープン初日にジャッカル・ニャンへ乗り込みんだ際、普通の少女が”何も知らず”に働いてる姿を目にして、彼女らへの”懸念”はその場で感じていたのだ。 ”もしかしたら、あの子かも…。確か、2度目に行ったときはシフトの関係かもしれないが、見かけなかったが…。もう、その時点で辞めていたのかな” ふと、麻衣は帰り際、”ありがとうございました”と笑顔で声をかけてくれたバイトらしき女性店員の顔を思い出した。 「それで、なんで私のところへ、その話をしに来たんですかね?」 麻衣はここで大体の用件は察していたので、自分の対応を決める判断基準になるであろうことを先に確認することにした。 ... 「U子、あなたがオープン初日にジャッカル・ニャンに来て責任者と会ったことを承知してたんです。駐車場の揉め事で騒ぎになってたのも店内から見てたそうです…」 麻衣は好美の話を聞きながら、同時に”あの日”のことを正確に思い出す作業に着手していた。 「…その後、応接室の隣の倉庫に備品を取り行った際、会話が聞こえちゃったそうなんです。毒だとかって物騒な言葉も飛び交って、なんだか怒鳴り合いになってる様子だし、恐くなってすぐに出たらしいですけど…」 「そう…。でも、その時、私は名乗ってないよ。何で本郷麻衣ってわかったのかな?」 麻衣は左隣に座っている好美の目を見つめ、鋭い口調で尋ねた
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