序の章

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

序の章

絶走/その1 影の声 A「おい、聞いたか?関西の某組から、早くも坂内スキームの”お問い合わせ”があったそうだが…」 B「そうらしいな。まあ、この件は今んところはまだ表だって接触はできねえだろうから、水面下の目に見えないところで話が交わされることになるな。でも関東内部には、それとなくしっかり”噂”が流れるんじゃないか(薄笑)」 A「ふふ…、徐々にでいいんじゃないか。中長期の視点でこのスキームを介した東西交流を重ねて行けば、知らず知らずに付合いが深まるし広がる。お互いにとってプラスだ」 B「問題は西内部での、このスキームを巡った意見の相違だろうよ。犬飼さんは積極的とはいかないまでも是認、一方、五島組や新義勇会のグループは反対ないしは慎重…。現状だと、こういったとこだろ」 A「その通りだと思う。後者はそのまま親相和会の立場で、淀の助川さんとも結びついてる。今後の3者間は、当面今の構図がベースになるよな。それに犬飼さんだって、ようやく相互関係が落ち着いたとこなんだし、そうそう波風はたてられない。親関東色を出すことは、周囲から反感を買うのが目に見えてるから無理だ。本家と東龍会は、そこをどういじっていくか…」 B「あのよう、小耳にはさんだところによると、坂内スキームは実用の都度、西のしかるべき一部に向けては暗黙で発信を行っていくらしいってことだ。…その第2弾は近々とかって”噂”だ」 A「それって、殺しのレベルなのかな?」 B「はっきりは分からんが、西へのアピールを考えるとそれが効果的なのと違うか。ただ、そのレベルまで求めず、ガキ市場の稼ぎに特化したスキームも実践していって、実用バージョンを別途売りこんでいくかもな。いわば、2パターンの同時展示って訳だ(笑)」 A「まったくウキウキする話じゃねえか、ハハハ…。坂内さんも面白いもんを作り上げたもんだぜ(薄笑)」 ... T’「西とのキャッチボールは今後、こういった形で根付くかな?」 T「おそらくな。でも、今回で一定のフレームが3者で黙認されたんだ。あくまで目立たんようにタマは静かに放らないとな(薄笑)」 T’「うん、そうだな。今回はガキやチンピラを派手に使いすぎたきらいがある。そこを剣崎あたりに突かれ、返す刀でガキ経由の情報戦争を仕掛けてきやがった。あれが効いたぜ、実際な」 T「まあ、敵ながらあっぱれだ。相馬のイカレがあの世に行っちまっても相和会は一筋縄じゃいかん。それがわかっただけでも、今回は収穫だったと思わんと」 T’「ああ、俺もそう捉えている。知能犯の剣崎だが、もともと相和会武闘派の先頭を切っていた筋金入りのイケイケだ。ウチとも昔から数えきれないくらいやり合ってきたからな。ヤツがここぞという時の大胆さと攻撃的な気性は骨身にしみてる。フン、間違いなく、ヤツが相和会の背骨だぜ」 T「それに伊豆のイカレたもう一人の老人だ。この二人がそっくり消えてくれれば相和会なんぞ、物の数じゃねえんだが。…、いや、失念してた。もう一人いたな、フフフ…」 T’「そうそう…。消えてもらう優先順位からすれば”もう一人”の方が上かもよ」 T「言えてるわ、はは…。本家にも理解してもらってるしな」 ... X「…なんか、地味にやれってな」 Y「ああ、こっちもしつこいほど言われてるわ。目立たず、忍者のように伝えて行けって」 X「噂を浸透させんのに、無理言うなって気もするぜ。まったく…」 Y「依頼主の主旨は拡散ではなく、ピンポイント内で噂の浸透だ。かなり器用に動くことが望まれるから、今回での俺らに対する勤務評定で選抜したらしいぜ」 X「うん、選ばれたのは嬉しいしさ、そりゃ。それに報酬もぐんと上がった。やる気は満々だ(笑)」 Y「フフフ…、今回、相和会はこっちのからくりを途中で見抜いて、相和会内部の内偵で末端どもを粛清したからな。”あの”指も音声付で届けやがって。みんなあれでビビッて、俺らの流し先の窓口も激減したし、かえって今度の手法の方が楽だ。見てろよ、相和会のダボどもが!」 X「おお、大打さんの足場を奪いやがって!せっかくあそこを拠点にして、遠大なプランが練られていたのによう!」 Y「だからこそ、今度はその恨みも晴らしてやればいい。ふふ…、大打さんはNG無しなんだ。旧態の形式に縛られるオールドやくざには、最先端のマルチオペレーションをお見舞いしてやろう」 X「よし、その為にもミッションを完遂だ。なんでも、これからは俺らの仕事ぶりを関西の組織にも紹介してくれるらしいからな(笑)」 Y「そうさ、コマーシャル付ならなおさら張りが出るってもんだ。将来のクライアント向けだし、こっちの仕事も増えて繁盛する。言うことねーよ(薄笑)」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!