春の花

1/3
前へ
/47ページ
次へ

春の花

 今日から新学期。そして今日から高校3年生。もう着慣れた制服を着る。  クラスメイトも後輩も、3月までいた先輩たちも、スカートを短くしたり第2ボタンまで外して胸元を大きく開けたりしているけれど、私はそういうのは好きではないので卒業まで着崩すことは多分無い。  最後に鏡で全身をチェックして、洗面所に降りて顔を洗い、前髪を整えてリビングへ向かう。  キッチンでは母が1つだけお弁当を作っていた。きっと父のものだろう。 「おはようお母さん」 「おはよう花音(かのん)。今日はお弁当いらないのよね?」 「うん、学校午前中で終わるから」  私はそう答えながら食パンを2枚トースターに入れた。 「お昼はどうするの? うちで食べる?」 「うーん、友達と食べてくるかも。学校終わったら連絡するよ」  野菜ジュースをコップに注ぎ、冷蔵庫からバターを取り出しながら母との会話を続ける。 「お昼だって準備があるんだから、なるべく早めにお願いね」 「はーい」  そう返事をするとタイミングよくトーストが焼きあがった。私はそれをお皿に乗せて、テーブルに運ぶ。 「いただきまーす」  トーストにバターを塗って、ひとくちかじるとテレビから星座占いの結果が聞こえてきた。 『……そして今日の運勢、第1位は天秤座のあなた! 今の恋が上手くいく予感? ラッキーアイテムはイチゴ味のお菓子です。そして第12位は水瓶座のあなた……』  いつも朝ごはんを食べている時間に流れてくるので、何となく気にして見てしまう。  私は天秤座なので、今日の運勢は最高らしい。今の恋が上手くいくことはきっと無いと思うけれど、それでも運がいいと言われれば何となく嬉しいものだ。 「ねぇ、食べ終わったら優太(ゆうた)を起こしてきてくれない?」  トーストをかじりながらボーッとテレビを眺めていると、母に弟を起こしてくるように頼まれた。  中学2年生になる弟の優太はどちらかと言うと大人しい方で、兄弟喧嘩もあまりしない。  朝ごはんを食べ終えると歯を磨いて、優太の布団を剥がし、彼が起き上がったのを確認してから家を出る。  今日は駅でイチゴ味のグミでも買おう、なんて考えながら。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加