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学校に着くと、玄関の前が酷く混雑していた。玄関の窓に新しいクラスの名簿が張り出されているようだ。
人混みは苦手だけれど、クラスを確認しないことには、そして玄関を通らないことには、校舎にも教室にも入れないので、私は意を決して人混みの中へと入っていく。
「……あ、あった」
ようやく人混みをかき分けて名簿を確認していると、すぐに『天沢 花音』の文字を見つけた。3年1組だった。3年間ずっと1組だったな、なんて思いながら一番気になっていた担任の欄を確認する。
『楠山 一翔』
担任も3年間変わらなかった。嬉しいような安心したような、だけど少しだけ悲しいような、複雑な気持ちになる。
楠山先生は英語の先生で、わかりやすい授業とその整った顔立ち、面倒見の良い性格などが生徒からとても人気の先生だ。特に女子生徒からの人気が高く、この学校で「イケメンな先生といえば?」という質問が出ればほとんどの生徒が迷うことなく楠山先生の名前を出すだろう。
……そして私の、好きな人でもある。
『今の恋が上手くいく予感?』
朝見た星座占いが脳裏をかすめる。
もしかしたら……なんて一瞬だけ考えて必死に首を振った。
楠山先生は去年の秋、この学校にいた国語の先生と結婚した。優しくて綺麗な国語の先生だった。それこそ「美人な先生は?」という質問に対してこの学校の誰もがその先生の名前を出すような。その先生がこの春異動して、楠山先生はこの学校に残ることになったようだ。
そもそも先生と生徒の関係、その上先生は既婚者だ。私と先生が恋愛関係に発展することはあり得ない。いや、あってはならない。この気持ちは心の中に閉じ込めて卒業するんだ。
私は改めて決意をし直し、教室へと向かった。
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