春の花

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「あ、花音ちゃんおはよう。また同じクラスで良かったー」 「今年もよろしくー」  教室に入ると、友達の日葵(ひまり)とすみれが声をかけてきた。 「おはよう日葵、すみれ。またよろしくね」  日葵は名前の通り、陽だまりのような笑顔で「うん、よろしくねー」と答え、すみれはその涼しげな顔立ちを崩すことなく「ういー」と答えた。 「そういえば他のメンバー見た?」  日葵がおっとりと教室を見回して言う。  私は「知らなーい」と答えた。  私は出席番号が高確率で1番なので、自分の名前だけ確認して他のメンバーは基本的に確認しない。教室に行けば分かることだし、1年生の頃から仲の良い日葵とすみれがいればそれで十分だった。 「宮凪(みやなぎ)琉華(るか)……」  すみれが呟く。知っている名前だ。  よく異性関係で生徒指導を受けているとか、テストは毎回赤点ギリギリだとか、家庭に問題を抱えているとか、彼女に関しては様々な噂が飛び交っている。  一言で言えば学校一の問題児。  廊下ですれ違ったことがある程度で、話したこともないけれど、なるべく関わらない方がいいだろう。 「その子がどうかしたの?」 「宮凪さんも1組なんだってー」  日葵が間延びした声で教えてくれる。  へぇ、と返事をしたその時、教室の扉が開き、沢山の男子に囲まれた女子生徒が教室に入ってきた。 「来た……」  すみれが好奇心とほんの少しの軽蔑を混ぜたような目で彼女をちらりと見た。  長い髪をハーフアップにまとめ、毛先はくるりとカールしている。髪色はよく目立つ明るい茶色。薄いピンクに染まって艷めく魅惑的な唇。猫を彷彿させる大きくて潤んだ瞳。身長は低く、小柄で子供のような体型だが、着崩した制服には同性の私でも正体不明の色気を感じてしまう。  彼女は圧倒的な存在感と、絶対的に人を惹きつける華を持っていた。  私のほとんど見蕩れるような(やわ)い視線と、彼女の射抜くような鋭い視線が、一瞬絡んで交差する。  私とは真逆に見える彼女は、どこか私と同じ目をしているような気がした。  すぐに視線は解けたけれど、あの射抜くような強い視線とどこか私と同じ雰囲気を持った目は、私の記憶に深く刻まれた。
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