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「……もしもそうだとしたら、すみれちゃんはどう思う? やっぱり気持ち悪い?」
「別に、人が人を好きになるなんて、普通のことでしょ。けど……私にとっては日葵も花音も大事な友達なんだ。どっちも幸せになって欲しいし、どっちにも苦しんで欲しくない。だから……応援は出来ない、と思う。ごめん」
すみれちゃんの言わんとしていることは普段何も考えていないと思われがちな私でもわかった。
花音ちゃんは私のことを恋愛対象とはしない。私が想いを伝えたら、優しい花音ちゃんは悩んでしまう。だから私の恋は叶わないし、伝えることも許されない。
……つまり、どちらも幸せになる、どちらも苦しまないというルートは存在しない。
「そうだよね……」
だから私は、この気持ちを花音ちゃんには隠し通すことを決めた。
「私ね……楠山先生のこと、好きになっちゃった、かも」
そして高校2年の修学旅行の夜、私の恋はあっさりと散ってしまった。
「マジ!?」
「あー楠山先生イケメンだもんねぇ。私は応援するよー」
驚くすみれちゃんの横で、私はいつも通りに笑いながら言った。
「……大丈夫?」
電気を消したあと、すみれちゃんがこっそりそう聞いてきた。
「うん、全然平気」
実際、自分でもびっくりするくらい冷静だった。花音ちゃんが幸せになれるように応援することが許されるなら、それでいいと思えた。
あの日からある意味、吹っ切れた所もあるのかもしれない。
「花音ちゃん、楠山先生のこと……」
「もう、早く部活に行って!」
「ごめんごめん、だって花音ちゃんずっと嬉しそうなんだもん。それって、見てる私も嬉しいんだよ」
だから案外平然と花音ちゃんをからかって、冷静に本心を伝えてしまった。
「もう……日葵のそういうとこ、好き」
「えへへ、私も愛してるよー」
この言葉の真意に、花音ちゃんは気づかない。それでもいいと、そう思えた。
抱きついた時にふわりと香る、シャンプーと制汗剤の混ざった匂い。
……あぁ、やっぱり好きだなぁ。
「頑張れ」
好きの気持ちを精一杯のエールに込めて、そっと花音ちゃんの耳元に送った。
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