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「正月番組は何が面白いんだ?」
「どうだろ? 俺は漫才が好きだけど」
私は黙ってチャンネルを変えて、マイクスタンドの前で漫才師が話芸を披露している番組を映した。キッチンから安理が観ているのを横目で確認しながら。
「この人達何歳なんだろう? 俺の小さい頃からずっと観てるんだけどさあ。その時からおじいさんだったんだよね」
私が手元の年賀状を一枚ずつ確認し始めてすぐ、安理が煎茶を淹れて私の前に差し出した。白くて長い綺麗な手。男の手を綺麗だと思ったのは、彼が初めてだ。
「君が子供の頃なら十年前くらいだろう。その頃から老人だったのなら、八十前後なのでは?」
「そっかあ、めっちゃ元気だなあ。俺のじいちゃんはさあ、生まれた時にはもう居なかったから、元気なおじいさんってイメージあんまり湧かないんだけど、毎年観てるおじいさんが元気だと、何となく明るくなるね」
彼には私にはない感性がある。だから、私は「そうか」と答えるだけだ。ここで「そうだな」と言うと「絶対思ってないじゃん」と肩を肘で小突かれることになる。
他者から活力を貰えるということは、今まで一度もなかった経験だが、安理という人間が側にいるようになって解るようになった。だから、その点だけでも頷きたかったが、そうすると自滅するので正解は「そうか」以外にない。
「君のは仕事関係みたいだな」
「そう、個人的に衣装貸してもらってるショップとか仲良いスタイリストさんとか、スタッフさんとかね。事務所宛にはもっと来てると思うけど」
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