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小さく溜息を吐きながら、微笑ましい姿に目を細めた。
「誰?」
安理の言葉は予想通りの反応ではあった。しかし正解の答えを導き出すのはあまりに難しい質問で、私は眼鏡のつるを上げて、「高校の頃の友人だ」と返した。
「嘘じゃん。少なくとも伊涼さんにとっては友達じゃなかったでしょ?」
ちらりと安理の顔を見る。怒っているのか悲しいのか分かり難い表情で私を見ていた。
「……ああ、そうだな。彼にとっては、私は最初から最後まで友人だったようだが、私には初めて性行為をした特別な相手だった」
ここまで言う必要があったか分からない。だが、曖昧な言い方で言い逃れるような真似をして誤解を招くぐらいなら、洗いざらい話してしまった方がいい。そう判断した。
「……は?」
しかしその判断は間違えていたようだ。安理の片眉がぴくりと反応する。
「この人さぁ、無神経過ぎるだろ」
「仕方がない。彼はストレートだから。私とのことは、彼にとっては大した意味がなかったんだ」
「いやいや、ストレートだからってやっていいことと悪いことがあるっしょ! 伊涼さんの気持ち全然考えてないじゃん!」
安理は年賀状を取り上げると、そのままエプロンのポケットに入れてしまった。
「伊涼さんも伊涼さんだよ! 普通くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込むくらいする案件じゃん! こんなの普通あり得ないからねッ!」
そう言いながら安理もぞんざいには扱えていない。写真に写っている奥さんと子供には罪がないからだろう。
「君が私のために怒ってくれるのは嬉しい。しかし過ぎたことだし、本当にもう良いんだ」
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