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冷たい廊下を抜けた先にある扉を開けた颯は、そこに立っている人物を見て固まった。
「よっ」
三白眼に近いその目に、見覚えがあった。ずっと一緒にいたから、忘れるわけがない。
「龍、斗……?」
「うん、龍斗だよ」
そう言って、死んだはずの龍斗は笑った。
劇団のロゴの入ったTシャツとジーパン。生前、龍斗が一番楽だと言っていた格好だったが、この時期にする格好ではない。
「何、固まってんの? 大丈夫?」
だって、死んだんじゃないの。
そう言おうとしたけれど、泣いているみたいにしゃっくりが出て、上手くしゃべることができない。
「ああもう、颯、そんなに泣くなよ」
「別に、泣いてなんか……」
頬に手をやると濡れていた。
泣いている。そう気づいてしまうと、後から後から涙が溢れてくる。
「ああ、ごめんごめん、泣き止めって。な?」
龍斗はそう言って、颯の背中をさすった。
いや、さすろうとした。
「え……?」
その手は颯をすり抜けて、空を掻く。
「龍……斗?」
驚きで涙が引っ込んだ。
「あ、えーっと……」
呆然とする颯に、龍斗は言う。
「俺、幽霊になっちゃった?」
冷たい風が吹き、颯の前髪を揺らした。
でも、龍斗の髪も服も、一切揺れることはなかった。
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