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この先も、ずっと
割と陽気な陽介が、ここのところ毎日の様に顔を曇らせている。
それを見る私は、実はとてもつらい。
なので、陽介を癒やしたくてお互い予定が無かった日曜日にも会うことにした。平日はもちろん家に帰ってもお互いの家に行き来はしているが、今週は湯汲さんとの事があった後だからか、あの陽介が大人しいのが気になって仕方なかった。
「もう…陽介、元気出して。気にしない様にしてるのに、陽介がそんなだと思い出すじゃないの」
「…そうなんだけどさ」
ぎゅうぎゅうと、私を後ろから抱き締め、陽介は自分の頭をぐりぐりと私のうなじへ擦り付ける。
私は回された陽介の腕にぽんぽんと宥める様に触れた。
「俺が悔しくて。和奏の唇だけでいいのに」
「……部分的に切り取られると、なんだか妙な気分になるね」
「妙な気分?」
「唇、とか。…ねぇ、そんなに感触覚えるくらいに触れたの?」
「えっ」
「………ん?何、その驚き方」
「いや…」
私は解り易く溜息をつく。
「だから、もう言わなくていいってば。ね、陽介。笑顔でいて、私がつらい」
陽介にそう訴えると、少し笑って見せてくれた。
「ん…」
元気なく出る声に、陽介の弱い部分を見れた様で愛おしさを感じる。思わず身体を捩って陽介の頭を撫でる。
「もう何日も経ってるし、その間に何回も私とキスしたじゃない。ね、ほら笑ってってば」
陽介の頬を両手で包んで、ぐ、と顔の中央へ寄せる。
すると、陽介の唇が突き出る形になった。
「え、わかな、ちゅー、してくれんの?」
陽介の顔を自分の手で中央に寄せている為、表情は解りづらいが喜んでいる様に見える。
「しないよ」
「なんで、だよ!」
もごもごと動かす唇が面白くて、思わず、ふふ、と笑ってしまった。
「わかなー」
「陽介が今回の事で、今後私に謝ったり、そういう、つらそうな態度を取らないと誓うなら」
「ちかう!」
「……食い気味に言わないでよ」
呆れて陽介の頬を包んでいた手を離す。元の顔に戻った陽介を、じっと見つめた。
「全部が陽介のせいではないし、気に病む必要はないよ。私の事を思ってくれてるんだろうけどね」
「和奏は何とも思わない?」
「この間言ったけど、思わない訳じゃない。だけど、終わっちゃった事を何度も言われたい?キスする度に私に泣かれたい?」
真剣な顔して陽介に言うと、えっ、と声を上げ慌て始めた。
「泣かれたくない、てか泣かせたくない」
「なら、もう言うのはなしね。陽介の気持ちは解ってるから」
「ん…」
表情を落とす陽介の頬に、今度はそっと触れる。
「陽介の事が大好きだから、何も心配しないで。私も心配しないから」
「俺も大好き」
「知ってる」
ゆっくりと、私から陽介の唇へ己の唇を寄せる。軽く、触れるだけ。
すると陽介が力を込めて唇を押し当ててきた。
「んぅ!……んっ!………んんん!」
抗議の声を上げるが、陽介はお構いなしで続ける。
しばらくして、唇が離れた。
「はぁ……ほんとにもう!」
「あんな程度で終われないし。次はもっと、遠慮なくやる」
「あのね、割と普段から遠慮ないよ?解ってる?」
呆れて陽介に言ったあと、二人で顔を見合わせて笑う。
「私ね」
陽介が、ん?という顔をして私を見る。
「あの時に、周りの人に言われてたのを聞いて」
「うん?あの時?」
「素でやり合ってる陽介と湯汲さんが、ホンモノに見えるって」
「はぁ!?」
「まぁまぁ落ち着いて。解るけど、ちょっと聞いてね」
「…ん」
「私ね、羨ましかった。あんなに声を荒げても言い合えるって」
「どう考えても罵り合いじゃなかったか?あれが羨ましいか?」
ふふ、と笑って陽介を見る。とても不思議そうな怪訝そうな顔してる。
「私と陽介は、もう人としての付き合いが長いから、そういう罵り合いに近いのって、もっと前にして終わってるのよね」
「まぁ、小学生の時なんかは普通に喧嘩してたしな」
「そう、あの頃はお互いきっと好きだったんだけど、幼いからか、好きだからこそ理解できなくて腹立ってた訳なんだけどね。少なくとも私は」
「う…、まぁ、そうか」
「だからもう、通り過ぎてしまって今更なのよ」
「まぁな」
「だけど、付き合い始めた今じゃ、お互いの事がよく解ってるから、あまりそういう衝突もないじゃない」
「ないな」
「だから、私達はクラスの中じゃあ、付き合ってるのに他人行儀みたいに見えるのかな、って。私の性格もあるんだろうけど…」
「う…ん?他人行儀に見えてんの?」
陽介の困り顔に更に笑う。
「湯汲さんの様に思いっきり感情を出してないしね。そんな言い争いにもならないし」
「いや、そうだけど…」
「周りには、湯汲さんと陽介のやり取りが、腹を割ってる様に見えるんだろうなー、って思ったの」
「いや、だから…罵り合ってただけで」
「陽介はそう言っても、周りからはそう見えたんじゃない?実際、私も少し羨ましかったから」
「え!和奏、俺と罵り合いたいの?」
「浮気でもしてきたら、罵るよ、地獄に落ちろとか」
「しねーし!何、その怖い発想」
怯える陽介に、ちゅ、と頬へキスをすると、陽介が顔を真っ赤にさせた。
「ちょ」
「そういうね、浮気は嫌だけど、今になって…付き合い始めたから余計に、喧嘩しちゃうほど陽介の前で曝け出してみたいな、って思って。恥ずかしいし嫌われたくない、って思っちゃうけどね」
陽介がお腹を抱えて笑い始める。
「曝け出したいの!?」
「ホンモノになれる気がしない?」
「確かに」
「喧嘩は嫌だけど…でも、喧嘩もしてみたい。恋人らしいやつ。浮気は嫌だけど」
「どんだけ浮気を全面に出すんだよ。そんなに信用ない?」
「ううん、信用…信頼してるから。しないのは解ってる」
陽介が安心した表情になった。さっきから浮気の単語を出すと眉を寄せていた。
「だからね、私の嫌なとことかあったら、すぐ言ってね」
「ないよ」
「もう!」
「なら和奏も俺に言って」
「言う」
「そこは、ないよ、だろ!?」
「ううん、言う」
「頑固か」
こんな会話でも、少しホンモノに近付けた気がするのは私だけなんだろうけど。
陽介とは何でも話せる仲で居たい。隠したり我慢したりなんて嫌。
「なんでも話せる様になりたい!もちろん、喧嘩込み!ね、陽介」
「俺、割と話してたよね…」
「あ、そうだね!」
「和奏の方だよね…」
「ですね!」
笑って誤魔化すと、陽介にベッドに押し倒された。
「ありがとな」
「え?」
「和奏がそうやって、俺を元気にさせてくれてる」
「…私も陽介に元気貰ってるよ」
「まだまだこれからだよ和奏、のんびり行こうぜ」
「たっくさん、陽介と色んな事したい」
「俺も」
そう言って、どちらともなく唇を重ねる。
二人で進めば、きっと怖いものなんてなくて、なんでも困難は乗り越えられる。
平穏ではないかも知れないけども、それをいかに解決して進められるかが、これからの二人には重要である訳だから。
このまま、お互いを想い合い、助け合い、時には喧嘩して。
ずっとずっと、一緒に居られますように。
=*=*=*=*=*= fin =*=*=*=*=*=
※※ お読みくださった皆様へ ※※
ここまで拙作をお読みくださり、ありがとうございました!
これにて完結となりましたが、しばらくオマケが続きます(*^^*)
毎日スターやページスタンプ、ページコメント、本棚へ追加してくださり、日々の活力となりました。嬉しかったです!
約1ヶ月の連載でしたが、楽しくできました♬
本当にありがとうございました(*^^*)
レーティング入れずに書き始めてしまって、後半かなり後悔しましたが…。
今作はこれが形、という事で終わらせようと思ってます。
スター特典で後日談を入れてみようと思ってます。近々…(*^^*)
次ページからは、二人とそれぞれ登場した人のその後の、短い会話です。
また次回作を公開しましたら、宜しくお願いいたします。
今度は大人の恋のお話です!
2021.01.29
深湖
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