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いつもと何ら変わりなく授業を受ける。
ふと前を見ると、陽介と湯汲さんが目に入る。
二人は私より前の席で、お隣同士。仲良くなっていったきっかけはこれだった。
目に入れたくないのに、前を見れば勝手に目に入る。その度に黒く渦巻く嫌なキモチ。
そっと、ため息を吐いて窓から外を眺める。眺めていると先生が解答する様に、って言うから前に出た。
少しだけ眺めてスルスルと解いてみせると、先生がお見事、と言ってくれた。外を見てても解けるなんて流石だな、とも。
素直に嬉しいとは思うんだけど、表情が上手く作れなかった。
席に戻ろうとすると、陽介の横を通らなければならなかったから、ぐ、と眉根が寄る。すぐに元に戻し席へ向かう途中で案の定、声を掛けられた。
「和奏、やっぱすげーな!」
満面の笑みで喜んでくれるのが、今こんなにも苦しい。
愛想もせず、とても冷たい表情でその場を過ぎた。少し離れたとこで、和奏?という声が更に聞こえた気がしたが、それも完全に無視。
嫌な女だな、ワタシ。
最悪な態度しか取れない。
昨日これも言っておけばよかった、もう話しかけないでって。
席に戻って椅子に座る。
これって、地獄でしかないな、と気付く。
ため息だけが溢れて終業のチャイムが鳴った。
◆◇◆◇
「ちょっと和奏」
「なに?」
「なに?じゃないよ!」
昼休みに、お母さんが作ってくれたお弁当を持ってランチルームに来ていた。一緒に来ているのは腐れ縁の横井由羅(よこいゆら)。彼女は小学校高学年からの付き合い。
「中河と何かあったでしょ、てか、あったよね?」
「昨日、彼女が出来たって報告を受けたけど」
「あぁ、湯汲さんね。って、そーじゃなぁーい!」
由羅が心配そうに私を見る。
「いいから、そんな風に見なくても」
「だってさ…」
言いたい事はよく解る。彼女も母と同じく、私の事情を知っているから。
「心配かけてごめん。だけど、どうにもならないからさ」
「絶対二人は想い合ってると思ってたのに…」
うん、実は私もそうかな、って思う時は何度もあったよ。だけど、実際はフタを開けてみればこうだもの。
「アイツにとっては私はただの仲の良い幼馴染だったって事だよ。長く一緒に居たから女に見えないんじゃない?そういう対象にはなれなかったって事」
自分で言ってて苦しくなった。私だって、何も自分を磨かなかった訳じゃない。友人達と色んな恋愛の話もしたし、色んな知識だって仕入れたし。
…そういう風に私は見てもらえない。だけど、湯汲さんはそういう風に見てもらえてるって事だ。
頭の中が、ざわりとする。背中がぞわぞわする。
私、ちゃんと陽介の前でも、オンナノコしてたつもりだったけど、陽介には全く気付いてもらえなかった事に胸がぎゅっと締め付けられた。何かに掴まれた。
痛いほどに。
私は陽介にとって女ではなかった。
私の手は震えてて、箸を手から落とす始末。
「和奏…」
由羅が更に心配そうに見つめてくる。
「陽介、の、おメガネに、かなったのが、湯汲さんだった、て事」
ぎゅっと目を瞑る。改めて自覚するとただ悲しくて。
手も箸ごと握り締めて、爪が手の平に食い込む。
必死に何もかも抑えつけて、はぁ、と息を吐く。
「…食べよ」
そうは言ってみても、もうこれっぽっちも喉を通る気はしなかった。どうしようか…。
「由羅、食べて」
「えっ、和奏、もう食べないの」
「もう食べれる気がしないから。お母さんに心配かけたくないし」
由羅が何を思ったか頭を撫でてくれた。
「和奏のお母さんのお弁当、美味しいから好き!わーい!」
こう言ってくれる由羅に感謝しつつ。
「…また落ち着いてから聞くから」
おかずを頬張りながら由羅が言うから、思わず気が緩んでしまった。
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