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「しかしさ、中河も勿体ない事してさ」
「何がよ?」
「だって和奏はさ、今日のお弁当はお母さん作だけど、フツーに料理とか得意じゃん?勉強も出来るし教えるの上手いし、あと可愛いし」
「可愛くないし。あと体育は苦手だけどね」
「和奏が可愛くないなら世の中オカシイわ…絶対お得なのにね」
「お得じゃなかったから、こうなんでしょ」
「それがオカシイ…アイツ、目ちゃんと付いてんの」
「付いてるでしょ、見えてるかどうかは知らないけど。湯汲さんだけ見えてるって事じゃないの」
「…ごめん、また今度聞くって言っておいて話題振っちゃった」
しまったなぁ、と困り顔の由羅に気にしなくていいよ、と言ったものの。
そうだよなぁ、きっと湯汲さんだけ見えてたんだなぁ、と改めて思うと、長い間、幼馴染として横に居た私はちっとも視界に入ってなかったのかな、と思ってしまった。
違うか、多分湯汲さんと出会う前は存在として認識はされてたと思うけど、湯汲さんと出会った後は視界には入ってなかった、が正しいのか。
もうダメだ。何もかもがダメな気がしてきた。
「和奏、気分転換にさ、合コンでもしない?別に付き合い始めたりしなくてもいいからさ。ちょっと違う環境ってのも、ね」
あからさまに、眉を顰めてしまった。そんな気になんてなれない。今後もなれる気がしない。
「ごめん、由羅…気持ちは、」
「ひぇっ」
「え?」
変な声を出した由羅を見ると、視線は私を通り越している。気になって背後を振り返ると同時に。
「和奏、合コン行くのか」
まさかの陽介の声が聞こえて、思わず身体がビクついた。
視線を上げると陽介が私を見下ろしている。表情は固く、口は引き結ばれていた。
「え?」
「だから、合コン行くのか?」
何の確認の質問なのか。意図が解らない。
「行かないけど、何?」
「行くなら止めようと思って」
「はぁ?」
「男はさ、下心有りで行ってるんだから危ないだろ」
陽介、アンタが言うかそれを。
そりゃ、陽介には湯汲さんていう彼女が居る訳だから、シタゴコロは湯汲さんに解消してもらえばいいだろうけど。
「なに?私がオトコとそういう風に出会ったらダメな訳?」
「ダメだろ」
流石にモヤった。腹が立ったが正しいかも知れない。
「何でよ」
「そんな風に軽く出会うな」
何様なの。私がどれだけの想いを抱えてると思ってんの。
「陽介には関係ないじゃない。…私だって、彼氏欲しいし」
「だから」
「陽介には彼女居るじゃない。口出さないでよ」
「ちょ、ちょっと!」
私と陽介のやり取りに危機感を覚えたのか、由羅が口を挟んだ。
「や、ちょっと、ね、誘ったのは私だけど決まった訳じゃないし、和奏は断ろうとしてたし」
詰まりながらも早口で由羅が陽介に説明する。
私は陽介から視線を外し、外を見た。
「そうか」
「だから、ね、ごめん、この話はこれでお終いって事で!」
由羅が必死に取り繕って、この場を収めた。陽介は由羅に邪魔してゴメン、と謝ってランチルームから出て行った。
私は相変わらず外に視線を向けたままだった。
「和奏、あれは嫉妬だよ」
「何言ってんの、そんな訳ないでしょ。ずっと一緒だったから口挟みたいだけだよ」
「そうかな…」
中河くん、行かないって知った時の顔、めっちゃ安心してたよ、と言われても。
優しい陽介が私を心配してるだけで。
そんなに心配してくれるなら。
なんで、私を彼女にしてくれなかったんだろう。
それでも湯汲さんが良かったんだよね。
悔しくて、寂しくて…心配された事が嬉しくて。
こんなただの幼馴染という関係だけでも、気に掛けてくれる事が嬉しくて。
陽介を好きという感情を、いつか忘れる事が、思い出にする事が、本当に出来るのだろうか。
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