62人が本棚に入れています
本棚に追加
そうやって、憂鬱な日々を送り続けて。
日が経てば、この辛く悲しい気持ちが少しずつでも無くなっていくものだと思ってみても、無くなるどころか今まで一緒だったのが一人になってしまった事で、余計に寂しさや恋しさが浮き彫りになって。
あの優しい穏やかな声で、私の名前を、本当に身近で呼んでくれるのではないかと心が期待してしまって、呼ばれてもただの幼馴染としての私への呼びかけだと解ってしまう。
その差に、打ちのめされて心が叫び声をあげているようで。
寂しくて恋しくて。
側に居たくて。
隣で、向かい合って。
話がしたくて。
ただの幼馴染、ただの友人、ただのクラスメイト、ただの同級生、ただの隣人。
もうそれでしかダメなんだと思ったら涙が止まらなかった。
この気持ちを伝えてしまえば、この苦しい恋は終わるのだろうか。
気まずい関係になって、疎遠になって。
陽介の顔を見られなくなっていく日々を、耐えられるのだろうか。
意気地無しな私は、結局どの選択も出来ない。
違う人に恋する日なんて、きっと来ない。
陽介を想った日々は、そんな簡単に捨てられなくて。
このまま抜けられなくなるのは絶対ダメなんだろうけど。
陽介、陽介。
今でも好きなの、大好きなの。
誰よりも近い場所で、ずっと側に居たかった。
◆◇◆◇
「ねぇ、和奏」
「ん?」
お母さんが夕飯の仕度をしていて、それを手伝っている。今日は餃子らしい。餡を少なめにスプーンで掬って、餃子の皮に包もうとした時に話し掛けられた。
「なんとなくさ、解ってはいるんだけど……あんまり辛いようなら転校する?」
「えっ?」
「元々、行ける学校があったじゃない。あそこに」
お母さんが躊躇いながら私に話し掛けてる。
私の手も止まってしまった。
「和奏が家の中では何にも変わらずで居てくれているけど、でもやっぱり寂しそうなのがね」
呼吸が一瞬止まる。唇が震え始めた。
「いやっ、あ、うん、大丈夫…だから」
「和奏が、本当に陽介くんの事を好きなのは、お母さんもよく解ってるから。簡単な想いじゃないのも知ってる。バレンタインや誕生日、クリスマス…幼馴染だからね、特別何かをしてる訳じゃなかっただろうけど、和奏がそういうのを大事にしてたから」
その先は、お母さんは言わなかった。たぶん、私に気を遣ってくれたんだと思う。言葉にしてしまうのを躊躇ってくれた。
今後は、陽介と湯汲さんのイベントとなる。
それを耐えられるのか、って事だろう。
言われてしまうと、耐えられるかなんて解らなかった。今でさえ、この状態なのに。
ここから先、そんな二人を目にする事があるのかも知れない。でも、無いかも知れない。
一番近い場所でなくても、側に居たいという感情は消せなくて。
でもあまりにも、不毛なのだと理解している。
お母さんの提案は、ただ陽介の側に居たいという願いを解ってる上での事だけど。
私があまりにも後を引きずり過ぎるから。今まで通りに出来ているようで出来ていないと見抜かれているから。
「ありがとう。でも少し考えさせて」
そう言うとお母さんは、少しだけ微笑んで、続きやっちゃお、と言って私と一緒に餃子餡を皮に包み始めた。
最初のコメントを投稿しよう!