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エール王国と
スェデルンはこの世界においての大国である。
エール王国は山に面しており気候柄
食べ物や織物など沢山の製品を周りの国に輸出する。
海にも面しており貿易も盛んだ。
スェデルンは大陸の中心に国があり様々な国との交易の中継地として栄えてきた。
穏やかな気候と広い土地という強みを生かしながら。
お互いこの世界を背負う大陸なのだが、
二つの大国の戦争が始まって一年になる。
小国の戦争に利益を求めて二つの国が介入したのがきっかけだった。
戦争が始まれば内政が不安定になる。
この、後宮内でも。
毒を毎日のように盛られ、
私の暗殺未遂が横行する。
原因はこの見た目だ。
王族の謂れである黒髪と黒い瞳。
第一王子は黒髪ではない。柔らかい茶色の髪。
そのためそれを利用して後継者争いや、
王家の力を利用しようとする勢力が
私に目をつけた。
髪の毛や見た目だけで、
何もかも決めつけるなんて何の意味があるのだろう。
もしも皇子と見た目が逆だったら平穏に暮らせていたのかと何度も考える。
私さえいなければ第一皇子の即位になんの問題も生じない。
私への、暗殺未遂が繰り返される。
手を変え品を変え命を狙われる日々に心も体も疲れ切っていた。
殺されるぐらいなら死のう。
ベッドに腰掛けていると、後毛が風に揺れる。
気づくと侵入者は音もなく側にいた。
窓をいつの間に開けたのだろう。
手のひらサイズのナイフを持ち侵入者は距離をジリジリと詰める。
顔は黒い布に覆われていて見えない、男なのか女なのか。
ヒヤリとしたナイフの感触が腕に当たる。
そのままナイフが肉を抉る。
「ー、」
感じたことのない痛みが腕に広がる。
それでも声を押し殺す。部屋の前に立っている騎士にバレないように。
「これぐらいで、良いかしら。」
声を落としながら侵入者に話しかける。
ベッドに散った血を見ながら
相手を安心させる様笑みを浮かべる。
思ったより溢れ出る血に
頭から血の気が引いていく。
おそらく、偽造工作はこれで充分。
どこから出してきたのか、
侵入者は手際良く包帯を巻く。
「充分です。姫様。」
男だったのか。声から分かる。
いつの間に夜になっていたのだろう。
窓の外から、月明かりが私の死を見守るように当たりを照らす。
姫様と呼ばれるのもこれで最後。
「じゃあ出掛けましょうか。私を攫って頂戴。」
自分の血で染まった手を、侵入者に差し出した。
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