Ⅰ・姫の死

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毎日暗殺未遂が続く中で感じた命の限界。 殺されるぐらいなら利用してやろうと、 何度も、何度も、打ち合わせを重ねた。 お互いの目的は一つ。 第一王子の継承権を固めたいだけだ。 私を暗殺しようとする者と、この状況から逃げたい私との利害の一致だ。 この環境から抜け出せるなら。 薄暗い部屋の中で、中で縛られた両手と口に回された布。 振り向くことは出来ないが、 暖炉の暖かさを背中に感じる。 肌けた上半身に恥じらいはない。 自分が決めたことだ。 背中に走る激痛と じゅううううと部屋に広がる肉の焦げる匂い。 「ああぁ“あぁ!!!」 舌を噛まない様に猿轡を嵌められたせいで声にならない悲鳴が漏れる。 背中に押された消えない烙印。 これで姫ではなくなる。 奴隷の印。 私は明日奴隷市で売られる。 「気を失わないなんて、さすが姫様。」 焼け跡を見て嬉しそうに、 笑う男の声に思わず寒気が走った。 「そうそう、ちゃんと姫様ぐらいの女の子の死体見つけてきましたから。グチャグチャにしてちゃんと森の中に捨てておきますからね。安心してください、姫様。」 飛びそうな意識の中で男の声が頭の中を巡る。 もう一生この男に会うことはないだろう。 「這ってでも、生き延びて下さいね。」 蛇のようにねっとりと耳に纏わりつく声。 耳元で囁かれた声に対して体から発されるこの男に対する嫌悪感。 言われなくても生き延びる。 声にならない返事を心の中でする。 これが私達の偽造工作。 これで私は正式に死ぬのだ。 そうして静かに私は目を閉じた。
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