いざ書庫へ

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 悩んでいたときに、コトリと微かな音がして、ドアが開いた。  この部屋のことを知っていて、自由に出入りする者と言えば執事のアダムくらいだ。 「お嬢様、ずいぶん根を詰めておいでですが、そろそろお休みになる時間ですよ」 「あらもうそんな時間? でも夜中なら誰も私を探さないし、ちょうどいいからもう少し読んでいくわ」  遅い時間帯らしいが、アダムはいつも通り隙なくお仕着せを着こなしていて、床にうずたかく積まれた本にちらりと視線をくれる。 「どうです? 勉強は進んでらっしゃいますか」 「そうね……と言いたいところだけど、わからないことも多くて行き詰っているわ。ああそうだアダム、『体が熱くなる媚薬』って何か心当たりある? うちにお金がないのは知っているけど、実物が手に入るなら見てみたいわ」 「媚薬、ですか……」  アダムは、秀麗な顔に表情こそ浮かべなかったものの、翠玉(エメラルド)の瞳を物憂げに曇らせた。 「お高いのかしら」 「いえ。というか私もそういったものの入手ルートは存じ上げません。それに、もし手に入ったとしても、見るだけではなく使わなければ意味が無いと思いますが」 「それもそうね。アダム、あなた一服盛られてみる?」 「やぶさかではないですが、(さか)りますよ?」  盛るとは。
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