執事の提案

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「無垢な花とご自分で仰っているうちは大丈夫でしょう。お嬢様はなかなか逞しい方ですし、見掛けに騙された男たちは端からしてやられるだけだと思います。何も心配はしておりません。没落したての今が一番売り時ですよ」 「よく言うわね。それならさっさと選んでよ。文句の一つも言わないで嫁いであげるわ。結婚までは手を握らせるだけ。屋敷の始末が済んで、今働いてくれている皆さんの落ち着き先が見つかったら、ひと思いに舌を噛んで死んでやる。初夜の前にね」  一通りの家具が一応残っている自室にて。深緑色のベルベットのカウチソファにしどけなく寝そべりながら、コンスタンスはアダムを睨みつける。  幼馴染というほどに、関係性は長くはないし密でもなかった。  ただし、彼はコンスタンスが気付いたときにはすでに屋敷勤めをしており、雑用係から従僕、そして副執事へと着実に昇進していた。まだ三十歳前。  その過程で、口をきく機会はまったく無いわけではなかったが、親しくもなかった。「ずっとそばで見守ってきたあなたのお嬢様」とは言ってみたものの、本人にその認識があるかどうかはわからない。否定はされなかったが。  こんな風に二人で向かい合って話すようになったのは、今のような状況になってから。最近なのだ。
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