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「アダム?」
きょとんとした愛らしい表情で名前を呼ばれて、アダムは軽く咳払いをした。
「すみません。ところどころ実際のセリフが採用されていたので、モデルを仰せつかった身としては色々と思い出し、いやなんというかリアリティに戸惑いましたが、作品の出来としては決して悪くないです。むしろ──とてもイイ」
モデルが自分であるとわかっていてさえ、グッときた。
「それじゃあ、その原稿、出版社の方に見てもらえるかしら」
コンスタンスは、期待いっぱいの眼差しで見上げてきて、ソファの上でにじりよってきた。
洗濯されたばかりの寝巻きから爽やかでほの甘い匂いが立ち上り、空気の揺らめきに乗ってアダムの元まで届く。
アダムはひそかにコクリと唾を飲み下し、「いいえ」と真面目くさった顔で言い放った。
「一冊の本として考えると、最低あと一回は必要だと思うんですよ。こう、ドキドキするシーンが」
ここにきて、若干の配慮を思い出してアダムが言うと、コンスタンスは力強く頷いた。
「交合ね」
身も蓋もない。
そして、何かを思案するように視線を彷徨わせて呟いた。
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