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さすがに晶子ももの申そうとしたがすっと立ち上がって寝室に行ってしまった。
「ね、蓮司はいつもこんな調子なの?」
「こんなって?」
「至れり尽くせりって言うか、あなたのこと心配し過ぎてるように見える」
「そうなんだよ! 36.8度超すと大丈夫だって言っても聞いてくれないんだ。だからもう言うこと聞いてることが多いよ。怒るし」
そこに蓮が帰ってきた。手には手紙がある。晶子も緊張した。
「お前宛の手紙、読んでやるよ」
「……いいよ。それより支度してくる。みんなにも悪いし」
カーディガンを脇に置いて立ち上がろうとするから肩を押さえた。
「なに言ってるんだ、お前も知りたいだろ?」
「いいって。後で聞く。それより先に行っててよ。お昼の用意もあるし」
「それくらい時間あるって」
「……じゃランチの後で。今はいい」
洗面所に行ってしまったから蓮はどうしていいか分からない。
「どうしたって言うんだ?」
「さあ…… 昨日もこんな感じだったわ」
やきもきしながらジェイの戻って来るのを待つ。なぜ気にならないのか。
(いや、手紙を持ったまま寝たんだ、気にはなってるはずだ)
戻ってきたジェイを捉まえようとしたが、けんもほろろ。
「ジェイ! 知りたくないのか! 誰からでなんて書いてあるか!」
「聞きたくないよっ、どうせいいことなんか無い、だって俺29だよ? なんで今頃? 今さらだよ、俺なんかになんの用なの!?」
蓮の手を振り切って着替えるジェイを違う目で見た。
(なんで今頃……お前、怖いのか? 手紙、握って寝てたんだぞ。なのに…… お前……)
涙が滲んでくる。思ってもみなかった『Shepherd』姓の名前がジェイを混乱させているのだ。そこに気づかなかった。
(『今さらだよ』そんな悲しいこと思うなよ)
蓮は立ちあがって後ろからジェイを抱きしめた。
「ジェイ、聞くんだ。俺な、お前に悪かったと思うが先に読んだ」
ビクリと腕の中の体が止まる。
「だからなおのことお前に聞いてほしいんだ。な、座れよ。大丈夫だから」
その間、晶子はどうしていたかというと…… 台所に行ってやることの無い流しを眺め、冷蔵庫を開け、オレンジジュースをグラスに注いで一気に飲んだ。とてもじゃないが、ジェイを抱きしめている息子を見ていられなかった。
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